アルダの逆襲(前編)
チャオはアカデミーを卒業後、アカデミーの助教授になっていた。
チャオは人に教える事の喜びを知り、我武者羅に勉強して毎日が楽しく充実していた。
助教授になってからあっという間に2年が過ぎていた。
「チャオ先生〜。」
「にゃ?」
チャオは一人の生徒から声をかけられて振り向いた。
「どうしたにゃ?」
「あの、分からない所があるので教えて頂けませんか?」
「うんっ♪端末開くにゃ。」
「はいっ!ありがとうございます。」
生徒は嬉しそうに端末を開いた。
チャオは教授陣の中では異例の存在だった。16歳で助教授になったのもあったが、生徒が何より話し掛けやすいというのが大きかった。
アカデミーでは若い教授もいたが、余りに理知的過ぎて生徒にはいまいち受けが悪かった。
そんな中でチャオは気軽に話し掛けられる相手でもあったし、飲み会などにも進んで参加していたので、生徒と先生というより友達の様に付き合える存在だった。
それだけに、勉強だけでなく私生活の部分でも悩みの相談などに乗る機会も多かった。
チャオには自分という存在が必要とされているという実感がものすごく感じられ、サテラとの別れで大きく傷ついていた頃とは見違える程に元気になっていた。
そして、自分の進む道が見つかったような気がしていた。
「・・・だから、こうなるんだにゃ。」
「なるほど!分かりました。ありがとうございました。」
生徒の方は深深とお辞儀をした。
「にゃはは。先生と生徒だからにゃ。あたしが分かっているのは当たり前だけど、皆がわからにゃいと意味無いもんね。」
チャオがそう言ってにっこり笑うと、生徒もにっこりと笑い返した。
生徒はその後、軽く一礼すると去っていった。チャオは軽く手を振って見送った。
・・・メディカルセンター・・・
「はい、アルダさん。もう良いですよ。」
看護婦が包帯を取るのをアルダは緊張しながら待っていた。
「もう、声帯は完全に治りましたから、声も話す事も出来ますよ。」
アルダは唾を飲んでから声を出してみた。
「あーー。」
すっかり忘れていた声だった。アルダは思わず嬉し泣きしていた。
「おめでとう。」
担当のドクターに何度も何度も頭を下げてから診察室から出た。
流石に泣いた後なので身支度を整えるのに一旦トイレへと向かった。
自分の顔を洗いながらアルダは嬉しさを噛み締めていた。
そして、顔を洗い終わった後メイクを直している最中にふと昔の思い出が頭を過った。
「・・・おのれ・・・・チャオ!!!」
アルダは洗面台を叩きながらその場で叫んだ。
周りにいた患者達は驚いた顔をしてアルダを見ている。アルダはそれに気がついて周りに頭を下げてそそくさとトイレを後にした。
早足でメディカルセンターを後にしてから、アルダは待たせていた車に乗った。
「ついに、声が戻ったわ。」
「おめでとうございます。奥様。」
運転手は嬉しそうにアルダへ言った。
「ありがとう。早速コルファに伝えるわね。」
運転手は静かに車を発進させた。
「社長。奥様よりビジフォンです。」
「悪いね。回してくれ。」
サテラは秘書にそう言うとビジフォンへ向き直った。サテラと結婚してからは、家の借金を全て返済して、今や飛ぶ鳥を落す勢いで社長をやっていた。
「あなた。」
「アルダ。声戻ったんだね。」
アルダの声を聞いたサテラは嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、これからいろいろお世話になった方にお礼をしに回るわね。」
「ああ、分かった。」
「今夜は遅くなるかもしれないけれど心配しないでね。」
「良くなったとはいえ無理はしないように。」
サテラの優しい言葉にいろいろな感情が混ざって、アルダは涙ぐんで小さく頷いた。
「ありがとう、あなた。愛してるわ。」
「ああ、俺もだよ。」
アルダの言葉に軽くウインクしながらサテラは答えた。
「それじゃあ、お仕事の邪魔したら悪いから切るわね。」
「ああ、お世話になった方には宜しく伝えてくれ。」
「分かったわ。」
アルダはそういうとビジフォンを切った。
「奥様、先ずは何処に参りますか?」
「そうね・・・どうしようかしら。先ずはお母様の所にやって頂戴。」
「はい、かしこまりました。」
そういってから、アルダは端末を開いた。
{待っていなさい、チャオ。このお礼はたっぷりとさせて頂くわよ。}
端末のコンソールを叩きながらアルダはほくそ笑んだ。