再会

トロはパイオニア2の転送装置へ来ていた。
いつものようにあちこちに笑いを振り撒きながら移動していたが、偶然ハオとテムの事が聞けたので会いに行こうとしているのである。
「うっしっし〜。驚かしてやらないとね〜♪」
そう言っているトロの片手にはハリセンがあった。
いつもの入り口にいる軍人を少し笑わせてからトロはラグオルの森へと転送された。


「それにしても見つからないにゃ〜。」
「っていうかさ、迷子かどうかも分かんないんだけどね。」
チャオの言葉にフェリアーテは苦笑いしながら答えた。
「確かにそうだったにゃ。こんな事なら通信講座やってれば良かったにゃ。」
「通信講座?何だいそりゃ?」
フェリアーテは不思議そうに聞いた。
「一ヶ月でマスター!ドラゴン語講座。一週間で普通の会話が出来るようになるって言ってたにゃ。」
チャオは自慢げに言う。
「あからさまに胡散臭くないかい?それ・・・。」
フェリアーテは飽きれた顔をして言った。
「にゃはは。実はあちしもそう思ったから手を出さなかったんだにゃ。」
「普通は出さないね。」
そう言ってから、二人は少し笑いあった。
「くえー。」
チャオの胸に抱かれているドラゴンの子供は良く分からないが楽しそうなので、楽しそうに鳴いていた。
「迷子だとしてやっぱりセントラルドームにいるって言われているドラゴンが親なのかにゃ〜?」
「どうだろうねえ。まあ、こっちにはいそうにないしセントラルドームの方に行ってみるかい?」
「うんっ!そうと決まればセントラルドームに向けてレッツゴ〜だにゃ。」
「くえーー。」
チャオの言葉に合わせてドラゴンの子供も吠え(?)た。


「どどど、どうしまそぅ。」
「俺に聞くな。」
テムとハオは巨大なドラゴンに見られたままその場でぼそぼそと言い合っていた。
「グルルルル・・・。」
ドラゴンは唸っていた。二人は思わずビクッと反応する。
「は、はおさん、あかでみ〜でどらごんのことばならわないんですかぁ?」
「んなもん、ねえよ。」
ハオは即答する。
「わ、わたしたちここでけしずみですかぁ?」
テムは泣きそうな顔で言う。
「だから、俺に聞いてもわからねえよw」
ハオは自棄になって少し涙混じりに答えた。
「グルルルルルル・・・。」
「うぅ〜。」
「・・・。」
テムは恐さで泣く寸前まで来ていた。何とか目に涙が溜まっている程度で済んでいるがいつ涙がこぼれて一気に環嬢が爆発してもおかしくない。
(こいつ、何か俺等に言いたいんだろうが・・・俺もテムもわからねえ・・・。ただ、危害を加えなけりゃあ、俺等は助かるかもしれねえ。)
ハオはそんな事を思いながらも、テムが一杯一杯になっている様子をとりあえず見ていた。
ドラゴンの方は暫く反応がないと少し頭を上にあげた。
(助かったか?)
ハオがそう思った瞬間、右前足が自分達の方へと迫ってくる。壁が迫ってくるような勢いである。
「ひえ〜。おたすけぇ。」
「洒落になんねえ。」
二人はすぐに方向転換して一気に逃げ出した。
そう、横に逃げればすぐに難を逃れられるのだがそんな余裕は二人には無かった。


「ん〜?これがセントラルドームにいるって言われていたドラゴンのなれの果てかな?しっかし首だけちょんとは凄いねえ。」
ハリセンを担ぎながらトロは感心した様に首の無いドラゴンの死体を見ていた。
「これをやったのがハオ様やテムだったら凄いねえ。な〜んて訳ないか。にっしっし〜。」
トロは笑いながらその場を後にして奥へと進んでいった。行く先々で消し炭と溶けた金属塊があるので不思議に思っていた。
(しかし、何で敵がいないでこんなのばっかりなんだろう???)
首を傾げながらも更に奥へと進んでいく。
「だれか〜。おたすけぇ。」
何処かで聞いた声が先の方からした。
(あの声はテム!これはカッコ良く登場して助けないと!)
トロはやる気満々でハリセンを構えながら一気に走り出した。


その頃チャオとフェリアーテはセントラルドーム付近まで来ていた。丁度首の無いドラゴンの死体がある場所だった。
「首が無いにゃ・・・。」
「無惨だねえ・・・。」
二人は苦い顔をしながら呟いていた。
抱えられているドラゴンの子供はそれを見て酷く怯えた。チャオにしっかりとしがみついている。
「大丈夫だにゃ。あちしとフェリーが守ってあげるにゃ。」
チャオはそう言って軽く撫でた。
少しその場で死体に手を合わせていると、地響きがして来る。
「にゃ!?」
「ん?地響きかい?」
チャオはドラゴンの子供を抱きかかえてフェリアーテの後ろに隠れた。フェリアーテはインペリアルピックを構えて周囲の気配を伺った。
さらに時間が経つと揺れが激しくなってくる。二人の表情に緊張が走った。


「さあ、あたしが来たからにはもう大丈夫。って・・・なんじゃそりゃあ!」
トロは逃げてくるハオとテムを見つけてハリセンをカッコ良く構えて声をかけたが、その後ろから迫ってくるものを見て目を丸くしていた。
「バカ野郎、トロ!そんな事してる場合じゃねえ!!!。」
余裕の無いハオはそう怒鳴ってトロの横を通過していった。テムの方は話す余裕も無く必死に走っていた。
「これはチャンスかも!・・・ぐるるる?」
トロが変な鳴き真似みたいのをするとドラゴンがピタッと止まる。
地面の揺れが無くなり不思議に思ったハオとテムは息を切らしながらも振り向いた。
「グルルルルル・・・。」
「ぐるる・・・ぐるぐるるる。」
二人は思わずポカンとしていた。トロがドラゴンと話している。
「お、おい・・・と、トロ。お、お前・・・何時の間に・・・そんなの・・・・身につけた?」
息も絶え絶えにハオはトロに聞いた。トロの方は軽く待ったのポーズをドラゴンにしてから振り向いて言った。
「あ〜うんとね。通信教育の一ヶ月で完全マスタードラゴン語講座ってやつ。」
ハオは思わずその場でこけた。テムは何か言いたかったが、息を整えるので精一杯だった。
「そんなんで話せるのかよw。」
ハオは起き上がってツッコンだ。
「そんな事言ってもさあ。話せるし分かるよ?」
ハオは納得が行かないという顔をしていた。
「それでねえ、このドラゴンさんが言うには、子供を知らないかだってさ。」
「俺はしらねえ。テムも見てねえよな?」
ハオの言葉にテムはコクコク頷いた。それを聞いて見てからトロはまたドラゴンと話し始めた。
「おい、テム大丈夫か?」
「ふ〜。なんとかふっかつれすぅ。それにしても、とろさんにあんなとくぎがあったとわ。」
ハオに答えた後、テムは感心した様に言いながら、トロとドラゴンの話し合いを見ていた。ハオの方も成り行きを見守っていた。


「おろ?地響きがやんだにゃ。」
「そう・・・さね。先にいってみるかい?」
チャオはその言葉に頷くと、フェリアーテも頷いて歩き始めた。
暫く行くと見た顔ととんでもないものが目に入った。
「はお〜・・・って・・・何にゃあれ!?!?」
チャオは驚きでそのまま言葉が出ていたが、フェリアーテは黙ったままで特に驚いた様子も無くドラゴンを見ていた。
ハオとテムだけでなくトロとドラゴンもチャオ達に気がついた。ドラゴンがチャオの抱えている子供を見ると一気に吠えた。
「キシャーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
周りの空気は凄まじい程に震えた。
「きゅ〜。」
テムは目を回してその場に崩れ落ちた。ハオは耳を抑えたまま蹲った。トロも耳を抑えている。
「ふみゃ〜あ???」
チャオはフラフラしながら目がぐるぐる回っていた。
フェリアーテだけは不動のままドラゴンを見据えていた。
「グルル・・・グル。」
フェリアーテがそういうと、ドラゴンはチャオの胸に抱えられて気を失っている子供を器用に大きな爪でそっと受け取った。フェリアーテはそれを確認してから軽くドラゴンに向かって手を振った。ドラゴンは頭を下げるとそのまま奥へと歩いていった。
暫くしてから皆回復した。
「それにしても、ひどいめにあいますたぁ。」
テムは苦笑いしながら言う。
「まあ、伝説のドラゴンってのはさっきの奴に間違いねえな。目的は果たせたし帰るとするか。。」
ハオは終ってスッキリしたという顔をしていた。
「やっぱり迷子だったんだにゃ。あの子。」
「そうさね、親元戻れて良かったさね。」
チャオとフェリアーテは嬉しそうに笑い合いながら言った。
「しかし、まさかあの通信講座が役に立つとは思わなかったねえ。うっしっし〜。」
「そりってもしかして通信教育のやつかにゃ!?」
チャオは驚いて聞く。
「そうだよ〜ん。ホントに分かるとは思わなかったけどねえ。やってみるもんだ。」
その後、チャオとトロは通信講座の話で盛り上がり、ハオとテムは流石に疲れきって黙って歩いていた。
(全くここには便利なものがあるもんだねえ。あたいなんて理解するのに3年かかったてのにね。)
フェリアーテは少し微笑みながら、チャオとトロのやり取りを見ていた。
「ん?フェリーどうしたにゃ?」
「いや、あのドラゴンの親子が再会出来て良かったって思ってたのさ。」
チャオの問いに少し笑いながらフェリーは答えた。
そんな様子を見てハオは、
(ああいう一面もあるのか。)
とふと思っていた。
5人はそのうちにパイオニア2への転送装置に着こうとしていた。


「くえー。」
「グルルルル。」
ドラゴン親子はセントラルドームの上から5人を見送っていた。