パイオニア2での二人

ハオは急いでいた。
「ったく洒落にならねえ。遅刻ギリギリだ。」
アカデミーまではまだ大分距離はあるがこのペースなら何とか遅刻は免れそうだった。いつもならこの時間は既にアカデミーでゆっくりしている時間帯だった。
そう、小脇に抱えている彼女と会わなければ・・・


30分前・・・
ハオはいつも通り家を出て、いつもの道を順調にアカデミーに向けて歩いていた。
「やっぱり歩かねえとな。」
横にはスピードロードがあるがあえてそれには乗っていなかった。ハオはハンターズライセンスを持っているのもあり、日頃から鈍らない様に歩いていた。
暫く良くといつもは人通りの少ない通りで人だかりが出来ていた。
「ん?なんだありゃ?まあ、俺には関係無いか。」
そう言うものの気にはなっていたのででチラッとだけ通り過ぎる時に目線だけ向けた。
何処かで見かけた子供が泣いている。
(・・・ヴィーナ・・・だったか?)
ハオは記憶を辿りながら名前を思い出していた。
(確かメビウスの娘だったよな。何でこんな所で泣いてるんだ???)
ハオは不思議に思い少し立ち止まった。ヴィーナの方は外見の目立つハオに気がついた。
そして、二人の目が合った。その瞬間ヴィーナはハオに駆け寄った。
「待てw」
ハオは自分の服の裾をしっかりと握り締めているヴィーナに向かってツッコンだ。
ヴィーナの方は瞳に涙を一杯に溜めてウルウルしている。
そして、ハオは周りからの鋭い視線が自分に向いているのに気がついた。
(もしかして俺何か勘違いされてる!?)
そう思っていると何人かがボソボソと話している。
「ねえねえ、あの人が親かしら?」
「全く、酷いわね子供を放っておくなんて。」
「若い親は駄目ね。」
(・・・テメエら・・・。)
聞こえたハオは切れそうになった。
「テメエら勝手な事抜かしてるんじゃねえ!俺の知り合いの娘なだけで俺の子供じゃねえ!!!」
完全に切れる前に叫んでいた。
「ふえーーーん。」
ヴィーナは大きな声で怒鳴ったハオの声に驚いて泣き出した。そして、また周りから無言で視線だけが飛んでくる。
(こ、この・・・・・・・。)
ハオはこめかみがピキピキ来ていたが、これ以上相手をするだけ無駄と悟って無視することにした。そして、ふと時計を見た。
「うわー!こんな時間だ。アカデミーに遅れる!じゃあなヴィーナ。」
ハオがそう言って去ろうとすると、ヴィーナはしっかりと服の裾を持って離さない。
「ああ!もう世話が焼ける。後でメビウスに会ったら山程文句言ってやるからな。」
ハオはやけくそ気味にそう言ってからヴィーナを抱えて走り出した。


「後少しだ。ったく分かってんのか。はしゃいじまって。」
アカデミーが見えて来てハオは少しホッとしていた。
そして、敷地内に入ってすぐに今日最初の授業のある講堂へと急いだ。
走っている最中に数人の視線が飛んできたがさっきのに比べればどうって事無いので無視して一気に目標目指して走った。
ハオが講堂に飛び込むとギリギリセーフだった。
「ふう、危ねえ危ねえ。」
開いてる席に無意識にヴィーナを下ろして座ろうとすると開いている席の隣が席を譲ってくれる。
「ん?」
ハオは自分が座ってから何で隣が席を譲るのか謎だった。相手の視線を追うと自分の傍らに行っていたので見るとそこにはヴィーナが上着の裾をもって立っていた。
(やべえ。すっかり忘れてた・・・。)
ハオは譲ってくれた相手に軽く一礼してからヴィーナを椅子に座らせた。
「いいか、おとなしくしてるんだぞ。」
その言葉にヴィーナは頷いてからにっこりと微笑んだ。
(おとなしくて可愛いもんじゃん。)
ハオは満更でもないといった顔でヴィーナを見た後授業が始まるので前を向いた。


授業が終り休み時間になった。
ハオは隣の席を見た。いるはずのヴィーナがいない。
「マジかよおい!いねえよ。」
ハオはその場で立ちあがってキョロキョロした。流石にハオは焦っていた。
「あのー。」
「ん?」
さっき席を譲ってくれた人から声をかけられた。
「さっきの子なら、ほら、床で寝てるよ。」
「へ!?」
ハオはそう言われて下を見ると確かにヴィーナが床で丸まって寝息を立てている。
「悪い、さっきといい今といいありがとう。」
ハオは相手に改めて礼を言った。
「いえいえ、若いと大変だよね。頑張ってね。」
(こいつも勘違いしてるし・・・もうどうでもいいか・・・反論するだけで疲れそうだ。それに、こっちはさっきと違って好意だもんな。)
「ああ、ありがとさん。」
ハオは素直に好意を受け取る事にした。軽く手を上げてから相手は去っていった。
「今日は後1限だから終ったらさっさとメビウス探すか。それまではしょうがねえ。俺が面倒見るか。」
腹を決めてから、起こさない様にそっとヴィーナを抱きかかえて次の授業のある講堂へと移動し始めた。


次の講堂につくといつもの友達がいた。そして、ヴィーナを見て開口一番。
「ハオ、お前まさか・・・。」
「待てw」
完全に勘違いしている友達に素早くツッコミを入れた。
「ハオ―。娘出来たんだって?おめでとー。」
「ハオ。隠し子ってどの子?」
「待て待て待てっ!w」
ハオは他からの言葉にまとめてツッコミ返した。
物珍しそうに見られているヴィーナの方は怯えてハオの後ろに隠れていた。
「お前等なあ・・・。言っていい冗談と悪い冗談があるぞ・・・。」
ハオは朝と同様こめかみかピキピキしていた。その様子を見て周りの友達はからかい半分の表情だったが、一気にそれが消えた。
「こいつはな、ヴィーナって言って知り合いの娘なんだよ。俺がアカデミーに来る時迷子になってたみたいでしゃあねえから連れてきたんだよ。」
ハオの言葉に少しだけ顔を見せているヴィーナはコクコクと頷いていた。
「とりあえずこの時間が終ったら今日は終わりだから親の所に返してくる。この時間何かあったら頼む。」
ハオの言葉に友人達は全員親指を立てて答えた。


ハオの心配をよそにヴィーナは途中から眠っていた。
「ったく、人の心配や苦労もしらねえでスヤスヤ寝てやがる。」
ハオはそう言いながらも可愛い寝顔を時々見ていた。
授業が終り周りがざわつき始めるがヴィーナは眠ったままだった。ハオはヴィーナを抱えて、友人達に軽く手で合図だけしてからアカデミーを後にした。
「しっかし・・・メビウスの奴何で放っておくかな・・・。」
ブツブツと言いながらチャオのマンションを目指した。


チャオのマンションについて呼んでみたが誰も出る様子が無い。
「おいおい、誰もいないってか・・・。参ったな。」
玄関の前で苦笑いして呟いた。それと同時にお腹が鳴った。
「腹減った・・・。しょうがねえ飯食うかな。」
ハオは諦めてマンションを離れいつもなら一人で簡単に食べてしまうのだが、ヴィーナを気遣ってレストランへ入った。
良い臭いがしているのに反応したのかヴィーナが目を覚ました。
「お、起きたな。何食う?」
ハオはレストランのメニューを見せる。
「おこさまらんちがいいの〜」
ヴィーナはニコニコしながら言う。ハオは頷いてから店員を呼んだ。
「Aランチとお子様ランチ一つづつ。」
「かしこまりました。」
店員は特に気にした風も無く注文を受けて去っていった。
「ふう、しっかし疲れた・・・。」
ハオはテーブルに突っ伏した。ヴィーナも真似してテーブルに突っ伏す。
(まあ、こいつに罪はないか。)
ハオが心で苦笑いした。少しして料理が運ばれてくる。
「頂きます。」
「いただきますなの〜。」
ハオは暫く自分の料理にかかりっきりだったが、ふとヴィーナを見ると口の周りがべとべとになっていた。ただ、不思議と周りに食材が散らばっている事は無かった。
「ったく、しゃあねえなあ。」
ハオはナプキンで口の周りを拭いてやる。ヴィーナの方は素直に食事を一旦止めて拭かれるのを待っていた。
周りからの視線は微笑ましい光景を目にするものに変わっていたが、ハオもヴィーナも気にする事は無かった。


「さて、どうしたもんか・・・。流石に連れて家には戻れねえし。」
食事を終えてレストランから出て来て、ハオは困っていた。
「よっ!」
「!?」
突然後ろから声をかけられてハオは驚いた。振り向くとメビウスが立っていた。
「ぱぱ〜。」
ヴィーナはハオの手を放して、メビウスに駆け寄った。
「おいおい、何でヴィーナがハオと一緒なんだ?」
「それは俺の台詞だ。なんでこいつ放っておいてんだよ!」
不思議そうに言ってるメビウスに厳しくツッコンだ。
「いや、今日は俺とは別行動でな。ヴィーナ、ママはどうした?」
「はぐれちゃったの〜。そしたらはおちゃんがたすけてくれたの〜。ごはんもごちそうになったの〜。」
ヴィーナはニコニコしながら答える。
「そっか、悪かったなハオ。」
「ったく、周りにゃ変な目で見られるわ、友達にもあらぬ疑いかけられるわで散々だったぜ。」
ハオは溜まっていた不満をようやくぶつけられた。
「サンキューな。ヴィーナは人見知りすっから、助かった。まあ、どう思うか分からんがヴィーナはお前の事が気に入ったみたいだな。」
「待てwそりゃどう言う事だ?」
メビウスの言葉に素早く突っ込む。
「ん?気に入った相手じゃねえと長い時間一緒にいねえよ。それこそどっか行っちまうからな。」
メビウスの言葉にヴィーナはコクコク頷いている。
「まあ、何はともあれ返したからな。じゃあ、俺は行くからな。」
「おう、今度何らかの形で返すからよ。」
ハオは軽く手を上げてから、振り向いて歩き出した。
「はおちゃん、ありがとなの〜。」
ハオはヴィーナの声を聞いて一旦振り返って少し微笑みながら手を振った。