フェリアーテ改心秘話(後編)

今まさにフェリアーテの手にイクリプストーチが収まろうとしていた。
(ついにあたいの手にデゾリスの秘宝が)
流石のフェリアーテも興奮を抑えられなかった。
そして、フェリアーテが触れた途端に頭の中に景色が思い浮かんだ。
(何だい・・・これは・・・)
フェリアーテはその場でイクリプストーチを持ったまま立ち尽くししていた。

「ラジャ様、宜しいのですか?」
お付の一人がラジャをせかす様に言う。
「まあ、待つんじゃ。もう少ししてからでも変わらんじゃろ。それに・・・御神体から発せられる光がまた、変わっておる・・・。あやつ一体何者・・・。」
ラジャが難しい顔をしているのを見て、お付の二人は顔を見合わせた。
「どうやら仲間が居るようです。他の方々はそちらに注意を逸らされている様ですね。」
もう一人のお付が静かに言った。ラジャはその言葉に軽く頷いた。

「おい!フェリー。何やってんだ行くぞ。」
ラースの一言でフェリアーテは我に返った。
「ああ・・・すまないね。」
(この秘宝・・・ただの飾りの秘宝と違うみたいだね・・・)
返事をしながらも見ながら思った。
そして、二人でその場を離れ様とした時・・・
「待って貰おうか!」
「その御神体をもって行かせはせんぞ!」
ラジャのお付の二人が目の前に立ちふさがった。
「ここは、俺に任せて行け、フェリー。」
ラースの言葉に頷いてフェリアーテは駆け出した。

「仲間を置いていくのかの・・・」
暫くして目の前に立っているラジャにそう言われたフェリアーテは立ち止まった。
「置いてなんて行かないよ。」
そう言いながらダガーを抜いた。
「やれやれ、これでもかの?後ろを見てみい」
ラジャにそう言われてフェリアーテは前を警戒しながら後ろを向いた。
「すまねえ、フェリー。こいつ等強いぜ。ドジっちまった。」
ラースが情け無い顔をして謝った。
「ふっ、しょうがないね・・・。」
フェリアーテはそう言ってダガーを投げ捨てた。
「あたいはどうなっても構わない。だから、そいつは自由にしてやってくれ。」
そう言って座り込んだ。
「御神体泥棒は重罪じゃ。その命を失う事になるかもしれんぞ?それでも良いのか?」
「ふんっ!誰が仲間を見捨ててまでこのまま行けるかって。紅のフェリアーテの名が泣くよ。それに、命が惜しけりゃこんな事してないよ。」
ラジャが少し脅す様に言うがフェリアーテはあっさりと言い切って答えた。
「ふむ・・・。」
少し感心した様にラジャはフェリアーテを見る。
「ラースは関係無いって事にしてやって欲しい。あたいが居なくなっちまったら他の奴等が路頭に迷っちまう。」
「良かろう。ただし、お前さんは残るんじゃ。それで良いな?」
ラジャの返答にフェリアーテは黙って頷いた。
「ラジャ様!」
「フェリー、お前ちょっと待てよ!」
お付の一人とラースは二人の言葉のやり取りを見て叫んだ。
「実際に御神体に触れたのはこやつだけじゃ。そのものはただ暴れたに過ぎん。違うかの?」
「うっ・・・。」
お付の一人はラジャの言葉に黙り込んでしまう。
「あたいはこんな奴知らないね。これはあたい一人でやったんだ。」
「フェリー・・・。」
「あたいはあんたなんて知らないよっ!さっさといきなよ。」
フェリアーテの瞳には涙が光っていた。それを見てラースは苦しい顔をした。
「そうだな・・・多分人違いだ。暴れて悪かった。ちょっと興奮しちまった。放してもらえるかな?」
ラースの言葉にお付の一人は驚いて助けを求める様にラジャの方を見る。
「放してやるが良い。ここは神聖な神殿じゃ、以後気を付けるように。良いな?」
ラジャの言葉にラースは静かに頷く。それを見て、渋々お付のものは放した。
ラースは放されると、そのままフェリアーテの横を通り過ぎる。
「後は頼んだよ。済まないね。あたいは死んだって言っておくれ。」
「俺の方こそすまん。分かった、それじゃあな。」
お互いにすれ違い様に言葉を呟きあった。
「この!」
お付の一人が飛びかかろうとするが、もう一人がそれを止めた。
そして、ラジャはゆっくりとフェリアーテに近付いた。
「さっきは脅かしてすまんの。わしはス=ラジャだ。ラジャで良い。お主名前は?」
「あたいはフェリアーテ、フェリーで良い。それに、自己紹介した所でどうせあたいは死ぬんだから意味無いだろ?」
ラジャの問いかけにフェリーは不思議そうに聞く。
「かもしれん。と言ったじゃろ。わし的にはお主を殺させるつもりは無い。」
キッパリと言い放つラジャを見てフェリアーテだけでなくお付の二人もポカンとする。
「全く、三人揃って何という顔をしとるんじゃ。ふぉっふぉっふぉ。」
ラジャは豪快に笑った。ただ、他の三人は意図が読み取れず首を傾げた。


ガンビアス大寺院・大講堂・・・
「という事で、わしが暫く預かる事で良いかな?改心無き場合はお任せする。」
ラジャの言葉に反対したいものの、自分達だけだったら盗まれていたと言う事を指摘されて黙るしかなかった。
(この、ラジャって奴は何考えてるんだ?)
フェリアーテは未だに意図が掴めず内心で不思議がっていた。
「では、これにてわしは失礼させてもらう。」
そう言ってお付の二人とフェリアーテを連れてラジャは大講堂から出ていった。
「おのれ、ラジャめ!どういうつもりだ!」
「全くズラ。機を見て奴をここから追い出すズラ。」
面白くない数人がザワザワとしていた。


「どういうつもりなんだいラジャ?」
フェリアーテは不思議そうにラジャに聞く。
「ラジャ様を呼び捨てに・・」
「構わんて。」
「うっ・・・。」
ラジャに言われて黙り込むお付の一人。
「どうじゃ、ここで僧にならんか?」
「何だって!?」
「はいっ!?」
「ええっ!?」
ラジャの言葉に三人で同時に間抜けな顔で言った。
「ふふっ、盗賊の首領のあたいが僧?なれる訳がないだろ?」
皮肉交じりに笑ってフェリアーテは言う。それを見て一人のお付がフェリアーテに掴みかかる。
「待てい!」
ラジャに一喝されお付の一人は名残惜しそうに放す。
「わしはな、冗談で言っている訳ではない。お主には素質があると思う。それに、前に何かをやってしまってるとしても消す事は出来ん。ただ、それを反省しこれから先にその分の罪を償えば良い。それに、お主は言葉使いは乱暴に聞こえるが、筋も通っておるし心は綺麗だと思う。どうじゃ、やってみんか?」
さっきまでにこにこしていた顔が真剣になったのを見て、フェリアーテもお付の二人も驚いていた。
「この二人のいない所で二人きりで話がしたい。」
フェリアーテも真剣なまなざしで言う。一瞬何かを言おうとしたお付の二人だが、ラジャとフェリアーテの真剣な顔に黙っていた。
「いいじゃろ。わしは自分の部屋へ戻る。お主達は御神体の見まわりをしててくれ。話が終ったら迎えに行く。」
「はい。」
他にも何か言いたそうな顔をしていた二人だが、ラジャの迫力に気圧されてそのままその場を離れていった。
「さて、それではわしの部屋で話を聞こうかの。」
ラジャの言葉にフェリアーテは頷いた。それを見てラジャは歩き出した。途中でラジャに会う者達は皆頭を下げていた。
(本当に偉いんだね・・・。この背中・・・今は何故か大きく感じる・・・)
フェリアーテは着いて行きながらそう思っていた。