終宴の桜



「桜かあ・・・。」
俺「ひらりん」は桜を見上げていた。
いつからだろう、必ず毎年桜を見る。昼間の桜と夜の桜・・・。
表情の違う両者を楽しく見ている。それは、自分の思い出としても記憶に残っている。
今回は、偉い事になっているが・・・。
(まあ、こういうのもありかな。)
俺は周りを見渡してから少し笑った。

「にゃは。みんにゃお疲れ様だにゃ。」
チャオはそう言いながら、片手にお酒、片手にジュースを持って周りにお酌し回っていた。
「チャオ先生。少し座られた方が。私がやりますから。」
横から不意に声を掛けられて、それと同時に両手も軽くなる。
「うにゃっ?にゃっ、ルー。じゃあ、ここで一休みだにゃ。」
声がして不思議に思って振り向くとそこにはルーが居た。ルーの方はすぐ周りにいるメディカルセンター関係者にお酌し始める。それを見たチャオは、とりあえず開いたルーの所に座った。
「お疲れさん、チャオ部長。」
「にゃはは、あたしはもう部長じゃないにゃ。」
少し冗談めかして言うアルラにチャオは笑いながら近くにあるグラスを持って合わせる。
「ったく、部下もまともに育ってねえのに、辞めやがって。」
「にゅふふ、そりはアルラの役目だにゃ。そりと、ルーを泣かせたら承知しないにゃ。」
「どっちも心配されなくたって問題ねえよ。」
胸を張って言うアルラをチャオは微笑ましそうに黙って見つめる。
「な、何だよ。」
「べっつに〜。にゅっしっし〜。」
ジト目で見るアルラにチャオは意味ありげに言いながら笑う。
「お疲れ様チャオ。」
「お疲れ。」
「にゃっ?おお、センター長にロー。お疲れだにゃ!」
後ろから声を掛けられて、振り向くとハリスとローがいる。二人に元気良く言って、チャオはまたグラスを合わせる。
「二人共老けたにゃ〜。」
「チャオが変わらんだけだ。」
「全くだ。」
チャオが白髪混じりの二人を見てしみじみ言うが、二人の方は笑いながら突っ込み返す。
「にゃはは、それもそうだにゃ。さ〜て、ルーも戻ってきたし、あたし行くにゃ。」
そういうと、チャオはコップを置いてから立ち上がる。
「ルー、交代だにゃ。」
「はい。チャオ先生。酔って暴れちゃ駄目ですよ?」
「努力するにゃ〜。」
釘を刺すルーの両手から、再びお酒とジュースのビンを受け取るとチャオは離れて行った。

「何してるのだ?」
「ん?」
俺は突然声を掛けられて、振り向くとむんちゃが居た。
「桜と周りを見てる。」
「ひら〜、そんなにまともな趣味してたのか。」
「やかましい!」
冷静に言うむんちゃに俺は笑いながらツッコミを入れる。
「ほれ。」
空のコップだったのを見て、お茶のボトルを差し出す。
「ありがとう。いつもの意地悪が嘘みたいなのだ。」
「まあ、そういう時もあるさ。」
俺は注ぎ終わってから静かにそう言って、再び桜の木を見上げた。
(いつものひら〜らしくないのだ・・・。)
むんちゃは少し離れた所に座って、お茶を飲みながら上目遣いでひらりんを見ていた。

「おい、ヴィーナに酒だけは飲ますなよ。それ以外はオッケーだ。」
メビウスはそう言いながらヴィクスンの作ったから揚げを口に入れた。
「どうだい?味は。」
ちょっと心配そうに聞くヴィクスン。
「うん、上手いな。ヴィクも食え。」
そういって、メビウスはヴィクスンの口元にからげを持っていく。
「あんた、恥ずかしいよ。人前で・・・。」
「あ〜!ままずるいの〜。びーなも、あ〜んなの〜。」
恥ずかしがっているヴィクスンの膝元にいるヴィーナが目を閉じながら口を開ける。
「しゃあねえな。ほれ。」
小さいからあげに変えて、ヴィーナの口に入れる。
ヴィーナは満面の笑みでモグモグ食べている。
「どうだ、ママのからあげは?」
「うんっ、とってもおいしいの〜。」
ヴィーナは嬉しそうに笑いながら言う。
「さあ、今度はママの番だよな?」
「うん、ママのばんなの〜。」
「わかった、わかった。食べりゃ良いんだろ。」
二人に言われて諦めたヴィクスンは少し赤い顔をしながらもメビウスからからあげを食べさせて貰っていた。

「白狐のヴィクスンも形無しだな。」
少し離れた所でその様子を見ていたサイレンスは小さな声で呟いた。
「まあ、仲が良いのは良い事だよ。それに、相手が悪い。」
イシュアはそう言いながら少し笑っていた。
「先生ここに居て良いのか?」
「ああ、僕はキャストといる方が落ち着くからね。別れ方も微妙だしここにいるのが安全かなってね。」
「それは言えてるかもしれない・・・。」
イシュアの言葉を聞いて、サイレンス派周りを見渡しながら呟いた。

「ウルフはん。不思議なもんやねぇ。」
「ああ、花を見て心が和むと言えば良いのか・・・。不思議な感覚だ・・・。」
プレアとウルフは寄り添いながら桜を見上げていた。
「皆楽しそうやなぁ。」
「そうだな。最後の宴としては大成功なんじゃないかな。」
ウルフは視線を回りに移して言う。
「そうやねぇ。色々あったけどぉ、ほんまにウルフはんに会えて良かったわぁ。」
プレアの方はチラッと周りを見たが、周りは無視してウルフの方を見ながら言う。
「俺もさ、プレア。チャオに出会った後、会えて本当に良かった。」
そう言い合うと、二人はしっかりと抱き合った。

「お疲れ様、フェリー。」
「ああ、ありがとね。ソニア。」
(俺が居ると邪魔かな。)
二人の自然なやり取りをみて、ソニアとはフェリアーテを挟んで反対隣に居たハオは立ち上がろうとしていた。
「ハオ、私はすぐに離れる。後は頼む。」
「あ、ああって、何を頼まれるんだよ!w」
ソニアの言葉にハオがツッコミを入れる。
「そりゃあ、フェリーの事に決まっているだろう?それ以外に何かあるのか?」
ハオの言葉にソニアは不思議そうに聞き返す。
「まあ、それもそうだな・・・。」
(こいつはチャオとかみたいに茶化さないしちとやり難い。)
ハオは何とも言えない顔をして答えていた。
「それじゃ、また後で顔を出すかもしれん。」
「ああ、ゆっくりしていきなよ。」
手を軽く上げて離れていくソニアにフェリアーテも手を上げながら見送る。
「ほんと、あいつは周りでも移植だよな。」
「ん?ああ、ソニアかい。真面目で不器用なだけさね。」
フェリアーテはハオの言葉に少し笑いながら言う。
「しかし、これで見納めかあ・・・。」
「そうさね・・・。」
ハオの言葉に、フェリアーテも静かに言って一緒に桜を見上げた。

「和夜、ここに居たのかにゃ。にゃっ!?シャオも居るんだにゃ。」
「チャオ久しぶりなのじゃ。」
「久しぶりだねチャオ。」
チャオの言葉に二人が挨拶する。
「にゃは、ここは憩いの場の名残だにゃ。」
「ふふ、確かにそうだね。他にも居るかと思ったけど、来れなかったみたいだね。私も他に誰も居ないかと思って寂しいって感じていたけれど、居てくれて良かった。」
シャオはそう言いながら微笑む。
「最後の最後で会えたのは良かったのじゃ。」
和夜も嬉しそうに言う。
「そりじゃあ、フォマール憩いの場に乾杯だにゃ!」
「乾杯っ。」
「乾杯なのじゃ。」
三人でグラスを合わせて、軽く飲む。
「ヘロインとか元気かにゃ〜?」
チャオは皆を思い出しながら首を傾げる。
「まあ、元気でやってると思うよ。」
シャオは飲みながら答える。
「わらわも、そう思うのじゃ。」
和夜も少し笑いながらそういって飲む。
「そうだにゃ。シャオ、あれやってにゃ。」
チャオはそわそわしながらお願いする。
「にw」
シャオを頷いた後、チャオに向かって笑いかける。
「にゃ〜、にゃ〜!」
チャオは諸手をあげて喜ぶ。
「本当にチャオはあれが好きなのじゃ。」
和夜は二人を見ながら呟いていた。

「あ〜首疲れたって。うわっ!?」
俺が視線を戻すといつの間にか、かなりの人数が来ていてそれぞれお酒やジュースなんかを注ぎあっていた。
「うしし、マスターやっと気が付いたようだね。」
ミトスはそう言いながら。少し笑っていた。
「ひらりんさんの事ですから、桜の精に見惚れていたのかもしれませんね。」
A.Tはさらりと言う。
「俺はそんなもの見えんわい!」
一応そこでツッコミを入れておく。
「ここに美少女が居るってのに、桜に見惚れるとは。」
「そうそう、このダイナマイトフルバディの私も居るっていうのにねえ。」
リリとリンセがいつものように言うが、俺はいつも通り華麗にスルーする。
「あ、ツタエ悪いけどそのかまぼこ貰える?」
「これね。はい。」
「サンキュ。ん、美味い。」
丁寧の取ってくれたかまぼこを、面倒だったのでそのまま口に入れて貰った。
「あたし等無視かいっ!」
かまぼこを口に入れた位に、リリとリンセからツッコミが入る。
「ミトスとレフィさんもお疲れ様っと。」
「ありがとう。」
「わざわざすいません。」
再び二人をスルーして、近くにある飲み物を注ぐ。
「A.Tさんも手酌しないでお酌させて下さいよ〜。」
そう言って、俺はそっちにも注ぐ。
「わたしには無しなのか?」
むんちゃが不満そうに聞いてくる。
「だって、ケーキ食べてんだろ?邪魔しちゃ悪いじゃん?」
「台詞と表情があって無いぞ!」
少し笑いながら言う俺にビシッと指差して言う。
「はいはい、良い子だから黙ってケーキ食べようね。」
「変に子供扱いするな〜!」
「さてと、ネオリンも遠慮してないで食べたりしないとね。」
「うん、そうさせて貰うよ。」
「セレシアもお疲れ様、まあ最後の最後ゆっくりしとこう。」
「あいさ。」
むんちゃもとりあえず一旦スルーして周りにいる全員に声を掛け終わった。
(全く忙しいやっちゃ。)
そう思いながらも、それぞれで話が盛り上がっているのを見ると、それはそれで嬉しかった。

「お待たせにゃ〜。」
「ちゃおさんおういぇ〜。」
「ちょんわっ!」
「来たなチャオ。待ちくたびれた、くびれ。」
「ふはっ!トロさんそれは。」
チャオの言葉に、テムとトロだけでなく今日はリクとコテツも来ていた。
「みんにゃも含めて本当に出会えて良かったにゃ。」
「うふふぅ。」
テムは嬉しそうに微笑んでいる。
「そうだねえ。この場が無ければ会ってなかったもんねえ。」
そう言うトロの膝では既に寝息を立てているセシールが居た。
「皆あってのこの場所だよね。」
リクはそう言ってから、周りを見渡す。
「今日は相方がこれずに残念。無念。最後にふざけあいたかったんだけどな〜。」
コテツは残念そうに言う。
「ここに居るだけじゃなく、もっと一杯の人達にとっての出会いの場だったんだにゃ。」
チャオがそう言うと四人は無言で頷く。


少し離れた場所で、俺は様子を見ていた。既に寝てしまったり沈んでいるのが見えたがそれは最後の宴のご愛嬌と言う事で。時間も遅くなって暗くなり始める。
「夜桜も悪く無いな。」
木の根元に寝そべって、そのまま見上げる。満開の桜は何枚かの花びらを散らせながらも見事なものだった。
「ますた〜。」
「ん?チャオか。」
覗き込むチャオに気が付いて、そっちに視線を動かす。
「最後なんだぞ。もっと皆と話してきたりしたらどうだ?」
「十分したにゃ。ますた〜こそ良いのかにゃ?」
「ああ、俺はいつでも後悔無いようにやってるさ。」
チャオの言葉に少し笑いながら答える。
「ほんとかにゃ〜?」
俺の言葉が信じられないと言った表情で聞いてくる。
「そこは、聡明なチャオのご想像に任せるよ。ありがとうな、チャオ。」
「何だにゃ急に・・・。」
俺の言葉が以外だったのか、チャオは何とも言えない顔になる。
「俺には物語を紡ぎ出す事しか出来ない。だけど、チャオもメビウスもプレアもフェリアーテもみんなこんなに一杯の人と出会って変わっていくなんて思っても見なかった。一番最初だったチャオ。お前が多くの人に愛されたから、今があるのさ。」
「にゃは、それはますた〜も頑張ったからだにゃ。」
チャオはニコッと笑いながら言う。
「あたしはここで終わりだにゃ。だけど、忘れられない限りずっと思い出として胸に残り続けるにゃ。ますた〜はこれからも生きていかなきゃならないにゃ。例え何があってもあたしにくれた勇気を持って・・・。」
真剣な眼差しで俺を見上げながら言う。
「ああ、ありがとうチャオ。お疲れ様。俺は絶対に忘れないさ。そして、これからも生きていく。今までに出会った素晴らしい人から貰った力、きっとこれからも出会うであろう人達からも貰う事になる色々なものを糧に、な。」
俺もいつに無く真面目な顔でしゃがみながら、チャオの目線になって言った。
「にゃは。」
チャオは俺の言葉を聞いてにっこりと笑う。
「ふふ、そして、お疲れ様チャオ。俺は大丈夫だ、最後に皆に挨拶してこいよ。んで、皆で記念撮影でもしようや。」
俺も少し笑いながら、言って再び立ち上がる。
「うんっ!行って来るにゃ〜!」
チャオはブンブンと手を振って離れていく。


「さ〜て、最後の記念撮影だにゃ〜。」
チャオの声で皆が集まってくる。
最初に出会いメビウスの嫁になったヴィクスンと、案内をしてくれた和夜、フォマール憩いの場のシャオ、そこが無くなり放浪していた時に出会ったミトス、やはり放浪中に出会ったハオ、挨拶ロビーで出会ったテム・トロ・リク・コテツ、それから再び放浪の旅で出会ったツタエ、むんちゃ、A.T、リリ、リンセ、ネオ、セレシア+α。
他にも多くの人達が集まり、最後にワイドで入れられるだけの人数を入れて写真を撮った。


ふと気が付くと、喜多院の境内だった。どうやら、椅子に座ったまま寝ていたらしい。
「ふう、やっぱり、桜の夢なんだな。A.Tさんが言ってたみたいに桜の精が案内してくれたのかな。」
俺は少し笑いながら立ち上がると、何かが下に落ちる。
「ん?」
何かと思って目線が行くと写真が一枚ある。自分ではまず撮らないワイドの写真。
そこには、笑ったり泣いたり色んな表情をした皆が居た。俺自身も端の方で斜に構えた感じで写っている。
「はは・・・。」
少しその写真の景色や、ライトアップされた夜桜の風景が歪んだ。
(チャオ・・・皆・・・本当にありがとう・・・。)
俺は心でそう言いながら、桜の間から見える月を見上げた。