チャオ先生の電子カルテNO。6



「チャオ先生急患が内科から回ってきましたっ!」
シェルの通院も終わった頃、チャオはいつものように忙しくしていた。そして、今日もまた一人の急患が運び込まれていた。
「内科からってどう言う事だにゃ?」
「腹痛で運び込まれたんですが、検査結果を見て手術が必要だと判断されたそうです。検査結果は電子カルデで回ってきています。」
「分かったにゃ。患者さんの様子はどうだにゃ?」
チャオは電子カルテのデータを開きながら、看護婦に聞いた。
「今は痛み止めを打って、痛みから開放されて疲れているのか寝ているそうです。」
「何処で寝てるにゃ。って、うわ〜、これは酷いにゃ・・・。」
聞きながら検査結果の数値などを見て、チャオはそう言いながらかなり渋い顔になっていた。
「今は・・・第一外科病棟の処置室です。」
「うん、ありがとにゃ。起きたら間違いなくまた痛みでどうしようもなくなりそうだから、今の内に出来る検査をやっておきたいにゃ。患者さんを外科検査室へ運んでにゃ。検査内容はチェックしてデータを送るからそう伝えてにゃ。回診に行って一時間で戻るにゃ。検査結果出せるのだけで良いから、あたしの端末に送っておく様にとも伝えてにゃ。」
「はい、わかりました。いってらっしゃい。」
「行ってくるにゃ。他にも急患とか緊急連絡が入って居て手に負えないようだったら呼んでにゃ。」
「はい。」
チャオは看護婦の返事を聞いてから、軽く手を振ってチャオは外科部長室から出て行った。

回診から戻って端末を見ると、検査結果のデータとリアルタイムで検査しているデータが送られてきていた。
「やっぱり、内臓ボロボロだにゃ。まだ若いのににゃあ・・・。」
ピピッ、ピピッ
「んにゃ?」
チャオは呼び出し音に気が付いて回線を繋いだ。
「「チャオ先生。付き添いの職場の方がいらっしゃいますがどうしますか?」」
「問題無かったら話を聞きたいにゃ。今どこに居るにゃ?」
「「第一外科病棟の処置室の前です。」」
「分かったにゃ。これから行くから待ってて貰える様に伝えてにゃ。」
「「はい、分かりました。お待ちしております。」」
チャオは通信を切って、データの送り続けられてきている小型端末をそのまま持って部屋を出た。

「お待たせしましたにゃ。」
「いえいえ、こちらこそお世話になります。それで、イシュアのやつの容態はどうなんでしょう?」
中年の男が心配そうに聞いてくる。
「正直かなり酷いですにゃ。手術は確定ですし、少し長めの入院をしないと無理だと思いますにゃ。今検査結果の一部が出ているのですが、内臓のあちこちのダメージが酷い状況ですにゃ。まだ、若いのにここまで酷いのは珍しいですにゃ。」
チャオは苦笑いしながらも正直に答えた。
「そうですか・・・。元々うちはロボットをメンテナンスする為の施設でして。その中でもイシュアは飛びっきりの腕の持ち主なんですよ。更に困った事に断れないというか、断らない性格でして、自分よりも来るロボットの事を優先してしまって。私は、何回もこちらで診て貰えと言ったのですが、自分を頼ってくるロボット達を放っておけないと言って聞かなかったのですよ。それが、積もりに積もってこんな形に・・・。」
中年の男は、何ともいえない表情でいきさつを説明した。
「医者の不養生と同じですにゃ〜。気持ちは分かるんですが、今回みたいになってしまってはロボットをメンテナンスする所か自分の命すら危ういですからにゃ。」
(その気持ちは分からないでも無いだけに複雑だにゃ・・・。)
チャオは苦笑いしながら言っていた。
「ええ、今もあいつの帰りを待ってる奴らが居るんですよ。正直イシュアじゃないと見れない連中も結構いるもんでね。ただ、そいつ等はそいつ等で、自分の事よりイシュアの事を心配してるんですよ。私としては、今回の事を教訓にして貰って無理しないようになって欲しい。その為にも、先生あいつに話もしてやって下さい。お願いします。」
「分かりましたにゃ。イシュアさんを待っているロボットの方々には、時間は少し掛かるけれど必ず戻るから待っていて欲しいと伝えて頂けますかにゃ。それと、そちらの方でもイシュアさんいがいの人材育成に力を注ぐようにお願いしますにゃ。」
チャオは話を聞いた後、静かにお願いした。
「はい、それでは、イシュアを宜しくお願いします。」
「お任せ下さいにゃ。」
頭を下げる相手にチャオはそう言って、看護婦に相手を外まで案内させた。
「少し長めの戦いになりそうだにゃ。」
チャオは舌をペロッと出して、白衣の袖をまくりながら気合を入れた口調で言って処置室に入って行った。

次の日に一回目の手術が行われ、悪性腫瘍などが取り除かれた。
それによって痛みはかなり和らいだものになっていた。
「先生、ありがとうございました。」
ベッドの上でイシュアはチャオにお礼を言った。
「何言ってるにゃ。イシュアの場合体力が無いから、長期戦になるにゃ。体力回復して、あと二回の手術をしないと、ここから出してあげられないにゃ。」
「ええっ!?そ、それ本当ですか!?」
チャオの言葉に、信じられないと言った顔になってイシュアが聞き返す。
「医者のあたしが嘘を言ってどうするにゃ。その代わり、職場との通信だけは時間限定だけど許可してあげるにゃ。少しでも早く戻る為に、休んで身体をしっかり治すにゃ。」
「はいっ、ありがとうございます。」
イシュアは嬉しそうに返事をして、渡された端末に頬擦りしていた。
(本当に好きなんだにゃあ。)
チャオは少し感心したようにイシュアの事を見ていた。

一ヶ月が経ち、イシュアは二回目の手術を終えていた。
その頃になると、一日6時間は通信端末の前に釘付けになっていた。ルーはそれを見ていて心配になっていた。
「あの、チャオ先生。イシュアさんなんですが、良いんでしょうか?」
「うん、元気になってきている証拠だし、みるみる回復も早くなっているにゃ。何だかんだで言う事だってちゃんと守ってるにゃ。」
「まあ、そうなんですけれど・・・。」
「そこまで心配なら、ルーが自分で判断して声を掛けると良いにゃ。婦長なんだから遠慮は無用だにゃ。」
チャオの言葉に、ルーは大きく頷いた。

「イシュアさん。もし宜しければどのようなやり取りをしているのかご一緒に拝見させて頂いても宜しいですか?」
ルーはニコニコしながらイシュアに頼む。
「ええ、面白いものじゃないかもしれませんが。どうぞどうぞ。」
イシュアの方は快く了解を出して、早速通信端末を繋ぐ。
「おはよう、皆。今日もメディカルセンターの第二外科病棟からだよ。二回目の手術も終わってかなり楽になったよ。後一回の手術が終わったら帰って直接見れるけど、それまではこれで勘弁してね。それじゃ、早速行ってみようか。」
イシュアの明るい口調で、ホログラフに映る向こう側のロボット達から色々な相談などが聞こえてくる。
イシュアはロボット達のデータを見ながら的確に指示を出す。自分で出来ない所は、現場に居る人間に話を振ってそちらに回したりしていた。
余りの手際の良さに、ルーは途中から見入っていた。
「ルー婦長?ルー婦長?」
「あっ、はい?」
「後ろで看護婦さんが呼んでいますよ。」
「あっ、すいません。それでは失礼します。」
気が付かなかった事に、恥ずかしくなってルーは逃げるように看護婦の方へ走って行った。
「流石は婦長さんだなあ。俺のこういうの真剣に見てたもんなあ。婦長さんのいつもテキパキと支持を与えたりするのが参考になるんだよなあ。自分だけで抱え込まない。人に任せる事で、後輩を育てるとか。ホントに凄いよなあ。」
イシュアは感心したように言いながら、再び端末に向かった。

二ヵ月後、ついに最後の手術が明日行われようとしていた。
「どうだにゃ、イシュアさん具合は?」
「かなり良いですね。これなら明日も大丈夫そうです。」
「それは良かったにゃ。それでだにゃ、今回の手術に関しては危険が伴うので前もってちゃんと説明とお断りをしておくにゃ。」
にっこり笑った後、今まで見たことの無い真剣な表情になって言うチャオに、イシュアは生唾を飲み込んで緊張した面持ちで説明を聞いていた。
「なるほど、痛みや何かともこれで終わりだけど、下手をすれば私自身が危ないって事ですね。」
「そうだにゃ。下手すると障害で手足が効かなくなる可能性もあるにゃ。」
チャオは神妙な顔つきで言う。
「ここまできたらチャオ先生に全て任せますよ。生きてりゃ何とかしてあいつらの面倒見ることだって出来るだろうし。私はそれが出来れば構いません。」
「分かったにゃ。ルーやあたしは少しは参考になったかにゃ?」
「ええ、すっごく参考になりました。正直目から鱗です。」
イシュアは素直にそう答えていた。
「あたしはが診ているのは、人だけどにゃ。イシュアみたいにロボットを見てくれる人も必要だにゃ。何としてあたしが完全に成功させて、待っている皆の元へ帰らせて見せるにゃ。」
「宜しくお願いします。」
熱く語るチャオに、イシュアは深々と頭を下げた。

三回目の手術は以前二回に比べると長く掛かったが、見事に成功した。
体力回復のリハビリをしながら、職場の方と通信端末でやり取りを続けていた。
そして、最初に入院してから四ヶ月でイシュアは退院する事になった。
「あたしとは違う立場だけど、イシュアみたいな人にも頑張って貰わないとにゃ。身体には気を付けて頑張ってにゃ。」
「チャオ先生の方もご無理なさらないように。本当にありがとうございました。」
「にゃは、あたしは医者として当然の事をしただけだにゃ。おっ、随分と一杯の退院祝いが来てるみたいだにゃ。」
「えっ!?」
チャオと一緒に受付ロビーを出口に向かって歩きながら話をしていたが、イシュアは言葉の意味が分からずに不思議そうな顔をしていた。
「すぐに分かるにゃ。」
そう言ってチャオはウインクする。
そして、表に出るとズラッとロボット達が並んでいた。
イシュアはその光景に驚いて唖然としていた。
「ほ〜ら、何ボーっとしてるにゃ。」
チャオはそう言って、軽くイシュアを前に押した。
「あ〜、皆ありがとう。今日で晴れて退院出来たよ。」

イシュアは照れ臭そうに言う。
「イシュアさん、退院おめでとう!」
ロボット達から一斉に声が上がり、キャシールから花束が渡される。
「あはは。」
更に照れ臭そうにイシュアは花束を受け取っていた。
「うんうん、良かったにゃ。」
チャオはその光景をニコニコしながら見ていた。
「チャオ先生。私に出来る事なら何でもしますので、お忙しいとは思いますが、気軽にメンテナンスセンターに連絡下さい。機械の事なら何でも相談に乗りますから。」
「私達にも何でも言って下さい。イシュアを助けて貰って、私達はまた安心して動く事が出来ます。代表してお礼を言わせて下さい。」
「にゃは、好意はありがたく受け取るにゃ。ロボットの皆、それぞれに与えられたお仕事頑張ってにゃ。イシュアも無理しないでたまには検査しにメディカルセンターに来るにゃ。」
チャオは嬉しそうに皆の方を見て言った。
「はいっ、本当に本当にありがとうございました。」
イシュアは深々と一礼しながら言った。それに合わせて周りのロボット達もチャオに頭を下げる。
「では、失礼します。」
そう言ってロボットに囲まれてイシュアはどんどんと離れていく。
(ああいう橋渡し役ってどこででも必要なものだにゃ。何ていうか勝手に作った垣根を越えた交流。あたしもああ慣れる心の広さが必要かもしれないにゃ。)
そんな光景を、チャオは軽く手を振り感慨深げに見送っていた。

・・・数日後・・・
外科部長室に珍しく総務部長のローが来ていた。
「なあチャオ。この前外科の看護婦が壊したロボットの修理費用が偉く安いんだが?本当にこれで良いのか?」
「うん、腕の良い知り合いが出来て、安くして貰ったんだにゃ。」
チャオは不思議がるローにあっさりと答える。
「まあ、そうか、実際戻って来てるロボットもちゃんと動いているから構わんが・・・。」
「構わないなら、それで良いにゃ。これからのお得意さんになるかもしれないにゃ。」
腑に落ちない感じのローにチャオはウインクしながら言った。