フェリアーテ改心秘話(前編)

アルゴル太陽系第3惑星デゾリス。
雪と氷に覆われた惑星。原住民はデゾリアンと呼ばれ、独特の訛りがある。
この星では聖なる炎「イクリプストーチ」と呼ばれるものがあった。
特殊なもので、ガンビアス大寺院に奉納されており、御神体になっていた。
まだ、ルディが生まれる前の話である・・・。


「姐さん。ようやくここまで来ましたね。」
白い息を吐きながら男は言った。
「ああ、そうだね。ここまで来りゃ、目的のものは頂いたも同じだね。」
真紅の髪の毛の女性は、吹雪の中遠くに見える大きな寺院を見ながら答えた。
まだ幼さの残る顔とは対照的に目付きは鋭かった。
「紅のフェリアーテ」デゾリスでは知られていなかったが、モタビアでちょっとは名の知れた盗賊団のボスだった。
今回の獲物は「イクリプストーチ」だった。
フェリアーテ達はガンビアス大寺院に向かい歩を進めた。


「久しぶりに外が荒れておるのう。何だか嫌な感じじゃわい・・・。」
ス=ラジャは窓の外を眺めながら呟いていた。
「ラジャ様、何か感じるのですか?」
お付の一人が尋ねた。
「ふむ・・・。久しぶりに御神体でも拝みに行くとするかの。」
そう言って、二人のお付に目配せしてから、ラジャは歩き出した。


フェリアーテ達はガンビアス大寺院の近くまで来ていた。
「いいね、ここからはかたぎのフリをして中に入るんだ。そして、何処にあるかを先ずは探す。分かったにせよ、分からないにせよ、今から3時間後にまた入り口に集合だ。いいね?」
フェリアーテの言葉に全員が頷き少し間隔をずらして次々とガンビアス大寺院へ入っていった。そして、フェリアーテは最後に寺院へと入っていった。
「ん?この感覚・・・何だ?」
フェリアーテは寺院に入った瞬間不思議な空気を感じていた。
(今までに無いこの感覚・・・一体何だってんだい?)
入り口で立ち止まっているフェリアーテを見て僧が声を掛けて来た。
「どうかなさいましたか?」
「え?あ、いや、外と一気に気温差があったもんだからさ。ちょっとボーっとしちまっただけだよ。こんなとこで立ち止まって悪かったね。」
フェリアーテはとっさに答えた。僧は小さく頷いて去っていった。
「ふう、危なかった。まあ、時間はあるし、この正体確かめてみようかね。」
フェリアーテは不思議な感覚の正体を突き止めるべく、寺院内を散策し始めた。


「ふうむ・・・やはり日に日に輝きが増しておる。伝説というのも意外と本当なのかもしれん。」
ラジャはそう言うが、お付の二人にはさっぱり分からなかった。二人はただ、顔を見合わせていた。
「フォッフォッフォ。まだまだ修行が足りんのう。」
ラジャはそんな二人を見ながら笑っていた。その反応に二人は苦笑いするしかなかった。
「しかし、今日はいつもにも増してお客さんが多いなあ。」
お付の一人が周りを見渡して言う。
「そうだな、何やら妖しげなのも混じっているが・・・。」
もう一人は眼を細めながら言う。その言葉を聞いてラジャは二人を端に呼び寄せた。
「今妖しい連中は何やら下見をしているようじゃ。きっと近いうちに何かが起こる。この中でぬくぬくと平和ボケしている連中も多い。気を引き締めるのじゃぞ。」
ラジャの珍しく真剣な表情に二人は黙って頷いた。


「これが・・・イクリプストーチ・・・。」
フェリアーテはそう呟きながら美しい光を放つトーチを見て呟いていた。それと同時にこれが不思議な感覚の正体である事も分かった。
(美しいだけじゃない・・・大きな力を感じる・・・あたいには・・・暖かく感じる不思議な感覚・・・。)
フェリアーテはトーチの前で暫く目をつぶっていた。目を閉じているのに、全く暗くない。それどころか逆に明るく感じる。目の前に美しい炎が燃えている。
(あたい・・・今目を瞑っているのに・・・何で見えるんだ?)
フェリアーテは不思議に思い目を開けた。そうすると前には炎の飾りのようなものがあるようにしか見えない。それだけ、見え方のギャップが激しいのである。
「???」
フェリアーテは首を傾げながら腕を組んでいた。そして、再び目を閉じた。するとやはり目で見るよりも美しく燃えている炎が見える。
(あたい・・・どうかしちまったのかねえ・・・。)
ちょっと溜息をついてから、目を開けた。
(ふふっ。あんたを手に入れてやるよ。必ずね。)
フェリアーテはトーチに向かって不敵に笑った。


「ん?何じゃ?」
ラジャはトーチの方を見た。トーチが輝いている。トーチの目の前には赤髪の女性客がいる。
「どうかされましたか?ラジャ様。」
お付の一人がラジャに聞く。
「うむ。あの赤髪の女が今近くにおるのは分かるな。それで、今イクリプストーチの輝きが増しておるのじゃ。まるで、彼女に何やら反応しているように見えるな。」
興味深々で赤髪の女性の事を目で追った。
「むう・・・。」
ラジャは、その女性をじっと見て何かを感じ取っていた。