チャオ誕生秘話

「いよいよですね。」
「ああ、これで成功すれば、生物兵器としてはかなり優秀な者達になるはずだ。」
そう言いながらニヤリと笑う。
「にゃ?」
そんな話をしている二人を培養液の中から一体の実験体だけが見ていて不思議そうな顔をしてみていた。それには二人は話に夢中で気が付かなかった。


軍司令部
「今回の実験体は全部で16体です。全てどんな条件下でも生き残れる様に、無機物からも栄養変換が可能な体の作りをしています。俊敏さを保つ為に猫の遺伝子をベースに作ってみました。猫ならば相手になつく事も無いでしょう。」
「こちらにもなつかないと言う事だな。」
将軍は少し不服そうに言う。
「ええ、ですが投入時には味方を引かせれば問題は無いでしょう。後はこの物達がやってくれます。しばらくはデータ収集などの為に前線に送り込めませんが準備が整い次第前線へ送り込むことが可能です。引き続き20体程の実験体も順調に育っております。」
「分かった。予算はかなりつぎ込んだからな。働きを期待しているぞ。」
それだけ言うと将軍は去っていった。


「にゃ〜」
「にゃー♪」
実験体同士はじゃれ合っていた。
一体だけは妙に理知的な顔つきだった。


1ヶ月もするとその理知的な顔つきの実験体だけが言葉を覚え始めた。
それには、実験を担当していた科学者達は驚いていた。
他の実験体以外は本能に忠実で戦闘能力も高かったが、その実験体だけは理知的で、その分戦闘能力は格段に低かった。


1年を過ぎる頃には、理知的な実験体は科学者の言葉やテレビなどを見て言葉を次々と覚え、ほかの実験体にいろいろ指示を出すようにまでなっていた。
そして、その実験体は元気良く挨拶するところから科学者に気に入られ「チャオ」と名付けられた。


5年後満を持して実戦投入され、個々の実験体の能力の高さが白日のものとなった。そして、チャオは見事に15体をまとめ指揮を取った。本人は戦闘能力は乏しかったが、その分頭が良く指揮系統の役割を予想以上に果たした。
しかし、それはチャオを危険視する人間も生み出した。
「チャオは見事な指揮ぶりでしたが、もし15体を指揮下に入れ我々に歯向かった場合は如何なさるおつもりですか?」
誰もそれには答えられなかった。


6年後、新たに実験体20体が実戦投入されたが、細菌兵器等で半分が死亡する。半分の犠牲で済んだのはチャオの退却の判断が正しかったからである。残った実験体はチャオを含めて18体になった。ここで軍の内部での株が上がり危険説、排除説が一旦淘汰される。


7年後、すっかり一つの小隊と化した実験体軍団は自軍、敵軍ともに恐れられるようになった。そして、ここでチャオを含め実験体の処分が存在が危険という事で軍上層部で密かに決定する。チャオ達はその事実を全く知らなかった。


8年後、無茶な命令を受け実験体チャオを含めて3体以外死亡。チャオは怒りよりも仲間の死が悲しく塞ぎこんでしまう。
「あちしたちもきっと・・・殺されちゃうんだにゃ。」
チャオの言葉に残りの実験体の2体は意味を察したのか不安そうな顔をする。
「逃げるしかないにゃ・・・。」
「にゃ〜」
「にゃー」
3体は満場一致で軍から抜け出す事をここで決めた。悟られない様にチャンスを伺った。3体に減った為軍も特に3体には無関心になっており。出撃は無くなった。ただ、科学者のデータ取りなどの実験は続いていた。


9年後、チャンス到来。科学者の一人を殺して。IDカードを奪い、軍からの脱出を図る。チャオ以外の2体はチャオを庇う様にして死んでしまう。チャオは泣きながらも軍の内部で自分のデータを作りそれを外部の戸籍に登録し、脱出に成功する。


脱出して裏路地で息を切らしているチャオ。ふと目線が落ちる。
「こんなものの為にみんなは・・・死んだのかにゃ・・・」
怒りが込み上げてきて胸についていた勲章を引き千切って地面に叩きつけた。
「みんな・・・ごめんにゃ・・・。みんなの事守ってあげられなかったにゃ・・・。」
チャオは俯いてボロボロ泣きながら言う。しばらくは無言のまま泣き続けた。
そして、何時の間にか眠っていた。チャオは夢を見ていた。まだ、自分も他のみんなも小さくてじゃれあっている懐かしい昔を思わせる夢を。
そして、ふと目を覚ました。周りをみて、再び現実に戻される。
「みんな・・・あたしはどこまで生きられるかわからにゃいけど、みんなの分も生きるにゃ・・・。だから見守っててにゃ。」
チャオは顔を上げて軍から離れた場所から軍の施設の方を見ながら言った。


そして、ここから一般人(ニューマン)としてのチャオの第2章が始まった。