ミャオとセプテイル


・・・居酒屋 猫八・・・

「へ〜、雰囲気のあるお店だね〜。」
セプテイルは店内に入ってからキョロキョロしていた。
「おや、ミャオ先生今日は早いね。二人かい?」
「うん。個室使わせて欲しいんだにゃ。」
「えっと・・・オッケー。予約入ってないから構わないよ。」
店長はスケジュールを確認してから、あっさりと了解をくれる。
「ありがとにゃ〜。」
ミャオはにっこり笑いながらお礼を言う。
「マスターかな?お勧めの料理何品か持って来て貰えるかな?」
「かしこまりました。二名様個室ご案内〜。」
セプテイルの言葉に返事した後、店長の元気な声が店内に響いた。

「それじゃあ、再会を祝してかんぱ〜い。」
「かんぱい・・・だにゃ。」
チンッ
元気良く言って、グラスの飲み物を一気飲みするセプテイルを複雑な顔をしてミャオは見ていた。
「ぷひゃぁ〜。赤ワインが良かったけど、喉渇いてる時は何でも美味い!うんっ。ってあれ?」
飲み干して満足げに行った後、セプテイルは不思議そうにミャオを見た。
「にゃ・・・はは。」
ミャオの方は困ったように笑いながら見返した。
「おっ、この魚のフライ美味しいっ!流石はお勧めだねえ。ん〜、どうしたらその持ったままのミルク飲んでくれるのかなあ?」
「にゃっ?」
言われて、ハッとしたミャオは持ったままのグラスに入ったミルクを飲んだ。
「とりあえず、先に言っておくとね。さっき居た連中と違って、あたしはミャオちゃんもフレナちゃんも狙ってる連中からの依頼は受けてないからさ。」
「ふみゃっ!?さっき居た連中って誰だにゃ!?」
セプテイルの言葉に驚きながらミャオは聞き返す。
「ん?ここ来るまでに尾行してた奴等いたからねえ。前の騒ぎもあったし、ハンターズも目を光らせてるから手は出せなかったみたいだけどね。」
「ふみゃ〜・・・。」
当たり前のように言うセプテイルにミャオは感心してポカンとしていた。
「ここは流石メディカルセンターのご用達だよね。ミャオちゃん顔パスだし、ここ妨害電波出してるっぽいし盗聴とかも出来ないようにレトロな作りになってるもんね。」
魚のフライを咥えたまま、セプテイルは部屋を眺めながら感心したように言った。
「そういう事わかるんだにゃ?」
「うん、ま〜ね。そうじゃないと傭兵家業もままならないのよ〜。」
「そ、そうにゃんだ?」
「そうだよ。コイツ大した事ねえなって思われて足元見られてさ、契約金安くされちゃうのよ。まあ、あんまなめられたらこっちからお断りだけどねえ。」
「はにゃ〜。」
知らない世界の話を聞いて、目をぱちくりしながらミャオは聞いていた。
「まあ、あたしの事はとりあえず置いとこっか。自分を連れて行こうとした相手であり、傭兵だって正体を知ってるのに追い返さなかった。あたしは口ではいったけど、もしかしたらこのまま連れ去ってもおかしく無い訳だ。なのに、ここに連れて来た。あたしに頼みたい事があるんでしょ?前の分でお話だけは聞いてあげる。」
「う、うにゅっ・・・。」
ついさっきまでとは打って変わって、にんまり笑いながらズイッと寄られたミャオは仰け反った。
(こ、この傭兵さん。ただものじゃないにゃ・・・。でも、この人ならきっと頼りになるにゃ。)
ミャオは直感的にそう思って、少し恐いなと言う緊張の反面、期待していた。
そして、思い切った行動に出た。
「そ、そりじゃあ・・・。」
そう言いながら、ミャオはビジフォンを弄る。すぐにセプテイルの持っているビジフォンに着信音が鳴る。
「んっ?な〜にをしたのかな〜っと・・・。」
(1000万入金って・・・。この子・・・。)
ニマニマしながらビジフォンを見たセプテイルの表情が、一瞬で変わる。
「ふっ、あっはっは。参ったねこりゃ。」
「にゃっ!?」
真面目な顔になった後、今度は突然笑い出したセプテイルにミャオはビクッとして驚く。
「気に入った。ホントはねさっき匂わせたんだけど、別の所からさらって来いって言われてたのよ。そのつもりだった。」
「にゃんですとっ!?」
いきなりぶっちゃけられてミャオは更に驚く。
「だけど、スポンサーはミャオちゃんに変更。だから無かった事にする。一気にこれだけ出すって事は、余程の事な訳ね。良いよ、その依頼受けてあ・げ・る。」
驚いているミャオにセプテイルはウインクしながら言う。
「ふにゃ〜、良かったにゃ。」
ミャオはちょっとホッとして気が抜ける。
「まあ、そうと決まったら交渉成立にかんぱ〜い。」
「乾杯だにゃ。」
チンッ
今度はミャオの方も普通にグラスを合わせて乾杯した。

「そりでね、調べて欲しいのは、私を【実験体】って言ってた事に関してなんだにゃ。」
「実験体?」
ミャオの言葉にセプテイルは魚のフライを咥えながら怪訝そうな顔になる。
「うん。最初に私とハミルを襲ったこの連中の中のこいつが言ったんだにゃ。」
ミャオはそう言って、ビジフォンとは違う携帯端末から画像を出す。
「この格好じゃ、この男以外は誰だかわかんないね。」
「まあ、そうなんだけどにゃ。それで、この言った男が軍の所属なのまでは掴んだんだにゃ。」
ミャオはツッコミに答えながらも言った。
「その言い方だと、メディカルセンターも一枚岩じゃないって事か〜。しっかし、軍で実験体っていうと穏やかじゃないなあ。」
セプテイルは画像の男を見ながら難しそうな顔をして言う。
「外科部長がなんか隠しがっていたんだにゃ。それで、この一件の前に、私と同期の外科医が酷い殺され方をして、ハミルはそれと関係あるんじゃないかって言ってたんだにゃ。今回の一件は表に出たけど、同期の殺人の件は検死解剖したのに調査もされなかったし表に出なかったんだにゃ・・・。」
ミャオは悔しそうに言う。
「う〜ん、以前のその件と繋がっているか今は分からないけど、明らかにおかしい事だよね。ちなみにその検死解剖ってミャオちゃんがやったの?」
「うん。これでも結構ベテランの外科医だにゃ。」
セプテイルの問いに、ミャオはにっこり笑いながら答える。
「は〜、パッと見た目じゃ想像つかないや。まあ、その辺も調べてみた方が良さそうかな。話を戻してっと。軍なんだけどさ、今の話聞いてちょっと引っ掛かる所あるんだよね。」
「にゃ?引っ掛かる所かにゃ?」
「そう。あたしさ昔ね軍人だったの。」
「にゃ、にゃ、にゃんですとっ!?」
「まあ、そこで驚かれても困るんだけどね。それでさ、あたしが教官って呼んだの覚えてる?」
「うん、あの白いヒューキャ・・・シ・・・ぅ・・・にゃぁ・・・。」
一瞬白いものと光が目の前に現れて意識が遠のきそうになる。
「ちょっと大丈夫!?」
普通に会話していたミャオの顔色が突然悪くなって震え出したと同時に目から光が消えて行くのに驚いて、セプテイルはテーブル越しに座っていたのをやめてミャオのすぐ隣に来て声を掛けた。
「だ、大丈夫だにゃ。ちょ、ちょっと、後遺症が出ちゃっただけだにゃ。」
弱々しく笑いながらミャオは答える。
「あんま大丈夫じゃ無さそうだけど・・・。とりあえず落ち着くまでは、無理に答えないであたしの話だけ流すように聞くだけで良いからさ。」
「うん。ありがとにゃ。」
「あの教官ね。キャストって似たボディ居るけど、あそこまでの腕前持ってるのは教官しか居ないと思うんだ。それで、また驚くかもしれないけど教官があたしの知ってる人だったら、軍人なんだよね。」
ミャオは声が出ないで目だけ見開く。
「しかも、かな〜り偉い人。」
「偉いってどの位だにゃ?」
セプテイルの言葉につられてミャオは好奇心で聞いてみた。
「准将って分かるかな?」
「にゃんとっ!?将校なんだにゃ!?」
「流石、外科医さん博識だね。そう。あたしが知ってる人だったら、パイオニア2・特殊部隊総司令官・ウォレア准将閣下・・・。」
「・・・。」
ミャオは「そんな馬鹿にゃ。」と言いたかったが驚き過ぎていて言葉が出ずに口パクになっていた。
「ちなみにさ、このさっきの三人を始末したのって、その白い奴?」
「うん、それでハミルは命拾いしたんだにゃ。」
「う〜ん、じゃあ益々教官っぽいなあ・・・。じゃなければあたしの名前があそこでポンと出る訳ないし・・・。」
「軍人だった時に面識があるんだにゃ?セプテイルも軍で偉かったんだにゃ?」
「あたしは偉く無かったよ。教官はその時点でも偉かったけどその事実知ったのずっと後だしね。あたしが教官に訓練とかの指導して貰ってたんだ。教官はその時既に准将で特別に期間限定で指導員やってたんだ。本来はそんな事する立場じゃなかったんだろうけど。ここからはあたしの推測だけど、教官は現場とかの雰囲気が好きなんだと思う。元々特殊部隊の道から叩き上げで上り詰めた人だからね。」
「ふにゃ〜、道理で強い訳だにゃ。」
「強いなんてもんじゃない・・・かなあ。それに、自分が上がって行った後も、教官として「鋼の鬼」って言われて数々の特殊部隊の人間育ててたからね。まあ、あたしもその一人なんだけどさ。正直あたしじゃ、足元にも及ばないよ。ここだけの話、あの場でミャオちゃんが言ってくれてなかったら、あたしもそいつ等と同じ運命辿ってたと思うもん。」
セプテイルは苦い顔をしながらしみじみ言う。
「でも、にゃんでセプテイルは軍を辞めたんだにゃ?」
「う〜ん、辞めたって言うか辞めさせられたっていうのが正しいのかな。何年か前にさ、ラグオルで軍の事故があったってニュース覚えてない?結構話題になったらしいんだけど。」
「うん、覚えてるにゃ。私、その時何人かの軍人手当てしたりとかしたにゃ。」
「嘘っ!?メディカルセンターに運ばれた人も居たの!?それ初耳なんだけど。」
当たり前のように言うミャオに、セプテイルが初めて驚きの顔を見せる。
「嘘言わないにゃ。私が面倒見たんだからにゃ。表には出せないから、当時の電子カルテ情報はサーバーのデータベースに保存してあるにゃ。当時センター長とか外科部長とかも反対したけど、人命優先だって私が駄々こねて軍の医療施設に収納し切れない一部の人をメディカルセンターで受け入れて治療とかしたんだにゃ。」
「そっか〜。ミャオちゃんはホントに良い子だね。うん。」
セプテイルは思わずミャオの頭を撫でていた。
「そりで、その事故がどう関係するんだにゃ?」
「ああ、そっか。その時にね、あたし現地に居たんだ。けどさ、事故前後の記憶無くてね。酷い怪我してて生死さまよった挙句、ラグオルを徘徊してたっぽいんだけど、軍内では死んだ事にされてたのよ。」
「う、うん。」
「それでね、まともに記憶があるのは事故から2年後。そこまでの記憶はポッカリ。軍に掛け合ったけど取り合ってくれなくてね。今思うと、あたしに戻ってこられたら不味いって思う連中が居たのかもしれない。教官の下に居る人がその事故の時の責任者でさ。その時、教官は別件で現場に出てて、その責任者から自分じゃどうしようもないって言われて諦めたの。」
「そうにゃんだ・・・。」
「それで、ハンターズにでもなろうかなと思ったけど、治めてる上が軍と仲悪い総督府でしょ。だから、ならなかった。それで、一番無難・・・。今思うと正解だったのかなと思える傭兵になったの。」
「傭兵以外にも何か考えたんだにゃ?」
ミャオはセプテイルの最後の方の歯切れの悪い言い方に疑問を持って聞いた。
「暗殺者、同じようなので殺し屋とかね。まあ、傭兵もお金貰ってるし仕事でそういう事選べば自動的にそう呼ばれるんだろうけど、あたしは基本的に殺しはしない主義だからさ。あたしの知ってる暗殺者とか殺し屋なんかは殆ど消えたね〜。逆にあたしと同じ傭兵で消えたのは殆ど居ないし元気でやってる。」
「行いは自分に返る・・・かにゃ。」
「そうかもしれないね。まあ、あたしの昔話はとりあえずここで終わり。でね、引っ掛かる事っていうのはさ、チャオちゃんを狙ったのは軍人だよね?」
セプテイルの問いにミャオは黙って頷く。
「でさ、もし助けたのが教官だとしたら、教官も軍人な訳だ。教官にはね強力なブレイン役の「鉄の女」って言われてる人が秘書として付いてるの。だからね、軍のそういう動きを知ってたんじゃないかって思うんだ。だけど、状況から見ると軍内で対立していたって言う感じでも無いし、口封じにしては変だと思うんだよね。」
「うにゃっ?何でだにゃ???」
ミャオは首を傾げる。
「だってさ、放っておけばそのまま軍にミャオちゃんを引っ張りこめたかもしれない。自分のテリトリーに入れちゃえば、教官の力振るうだけで外からの干渉なんてシャットアウト出来るだろうし、殺さずとも三人の目の前に出て正体を明かせば良かったと思うし・・・。何で教官がミャオちゃんを守る側に居たのかがどうしても不可解なんだよね。逆に言うなら、教官が助けてなかったらミャオちゃんは今頃軍の何処かに幽閉されててもおかしく無いって事・・・かな。」
「にゅうぅぅ。」
(助けてくれたあの白いヒューキャシールがセプテイルの言っている人だとして、その行動の矛盾が引っ掛かっているって事だにゃ。ただ、それこそ真実はその人の胸の中だにゃ・・・。)
ミャオは難しい顔をして考え込む。
「さっきの状況見ると、流石に教官と再会してどうこうっていうのは無理そうだからなあ・・・。それで聞けるだけ聞いて貰えたらと思ったけど無理そうだし・・・。」
セプテイルも難しい顔になって言う。
「軍の方を調べて貰う訳にはいかないのかにゃ?」
「それは考えたんだけどさ、教官絡みの上に、「鉄の女」まで相手するのはねえ。悔しいけど、正直あたしには無理っ!」
セプテイルは悔しそうに言うものの、きっぱりと言い切る。
「その鉄の女ってどう言う人なんだにゃ?」
「最初は教官が将校になった時にお目付け役としてと切れ者過ぎて手に負えないってので、上からの指示もあって秘書として配置された。まあ、あたしが知ってるだけでもその切れ者っぷりで軍を辞めざるを得ないとかなった連中結構居たからねえ。当時、事務方からの将校最有力候補って声もあったね。」
「はにゃ〜、正義の味方みたいな人なんだにゃ?」
「いやあ、それが曲者でさ。当時若かったのに適応力も高くて、真面目一辺倒じゃないから厄介なんだ。」
「セプテイルはその人詳しく知っているんだにゃ?」
「まあ、そこは色々あってね。最初は教官の監視役だったのが、いつの間にやら最大の理解者、協力者に変貌を遂げてね。手が付けられなくなった訳だ。」
「最強のコンビなんだにゃ。」
「そういう事。あたしがまだ軍に居た時でさえ、あの二人が軍内の事で知らない事は無いって言われてたし恐れられてたからねえ。あたしとか元々教官の下に居る特殊部隊の人間は身近に居たから余計それを知ってるんだよね。そこから、数年して足固めとかしっかりしてそうだし、一人の傭兵が立ち向かうには分が悪いって言うか、負けって分かってる戦い挑むようなものだからね。」
セプテイルは苦笑いしながら言う。
「私じゃなくて、実際に救われたハミルだったら直接会ってお礼言えると思うし、私なんかよりずっと優秀だから話とかも出来ると思う。」
「そっか、その手があったか。だけどさ、ハミルちゃんを完全に巻き込む形になっちゃうよ?それでも良いの?」
「うぐっ・・・そ、そりは・・・。」
ミャオはそう言われて流石に困った顔になる。
「そこは、ミャオちゃんに任せる。あたしは直接軍にって訳には行かないけど、その【実験体】っていうキーワードで知り合いとかに聞いてみるよ。後は、そうだなあ・・・ハンターズに知り合い居ない?」
「うにゅう、居ないにゃ・・・。ごめんにゃ。あっ、でもハンターズの人が事件の事で私とハミルに話を聞きたがっているっていうのは、精神科の先生が言ってたにゃ。」
「そしたらさ、二つ聞いて欲しいんだ。一つは、何でハンターズがミャオちゃんとハミルちゃんを守ろうとしていたのか。もう一つはこの三人の上司が誰なのか分かれば調べて欲しいって。」
「あり?そういえばにゃんでだろ???」
(今言われて初めて気が付いたにゃ。にゃんでハンターズが???)
ミャオは言いながら首を傾げていた。
「ね、変でしょ?そこもあたしが、おかしいなあって思った所。だから聞いてみると良いと思う。」
「うん、そうするにゃ。」
「よしっ!全て決まった所で飲むぞ〜。あたし赤ワイン〜♪」
「私、日本酒にゃ。」
「おぉう、行ける口だねミャオちゃん。」
「にゅふふ、見た目とはちょっと違うんだにゃ。」
二人は笑いあいながら、ワインと日本酒が来るのを待った。
「さあ、飲むぞ〜。かんぱ〜い♪」
「かんぱいだにゃ〜♪」
べろんべろんになるまで食べて飲んて騒いだ後、二人は猫八の前で手を振り合って別れて気分良く帰っていった。