事件後

・・・一週間後・・・
「メリア大佐。」
ハーティーは廊下を歩きながら、緊張気味に聞いた。
「ん?どうしたの?」
メリアは不思議そうに振り向きながら聞いた。
「その、自分のような者がウォレア閣下のような御方から直々にお言葉を賜えると言うのが未だに信じられなくて・・・。」
緊張もあったが、その信じられないという気持ちを素直に言っていた。
「信じるも信じないも、もうすぐ閣下にお会いするのだから現実よ。ここだけの話、閣下は貴方の事を入隊当時から気にされていたご様子。貴方の才能を買っていらしたわ。」
「そ、そうなのですか!?自分みたいな大した事のないものに・・・。」
メリアの言葉にハーティーは驚いていた。
「ハーティー。その言葉は閣下の目が節穴だと言っているようなものよ。閣下の前では決して言わないように。」
「はっ!申し訳ございません。」
ハーティーはその場で敬礼して謝った。
(ふふっ、確かに面白い子だけれど、真面目過ぎるかもしれないわね。)
メリアは内心で少し笑いながらも、冷静にハーティーの事を分析していた。

「閣下、お約束通り。ハーティーを連れて参りました。」
「ご苦労。ハーティー、久しぶりだな。」
「はっ、訓練場ではお手合わせありがとうございました。」
ウォレアの言葉に、ハーティーは敬礼しながら答える。
「ハーティー、正直に答えろ。あの時あと、数秒あったらどうなっていたと思った。」
最初に掛けた気楽な言葉とは違い、真剣な感じでウォレアが聞く。
「・・・。ウォレア准将閣下からは凄まじい殺気が出ていたのを感じました。それは今でも覚えています。あのままメリア大佐のお声が無ければ、自分は死んでいたかもしれないと思っています・・・。」
(あそこまで恐いと思ったのは生まれて初めてだった・・・。)
ハーティーは少し唇を震わせながらも、思い出すように言った。
「そうか、お前は敏感なのかも知れんな。だが、その感覚は悪くない。訓練と変な割り切りをして緊張感の無い連中が実戦では死ぬ事になる。私はそれを多々見てきた。だから、訓練とはいえ、少しは手加減するが基本的には本気で向き合う事にしている。」
「ウォレア准将閣下のお陰で、自分は目が覚めました。そして、恐れ多くも影を追うように毎日訓練に励んで、再戦をしたいと内心ではずっと願っておりました。」
(閣下の前でこれだけはっきり物事を言えるのは、なかなかの者。でも・・・。)
「ハーティー、閣下は今貴方の意見を聞いてはおりません。分をわきまえなさい。」
「はっ、申し訳ございません。失礼致しました。」
メリアの注意に、慌ててハーティーは敬礼しながら詫びる。
「メリア。まあそういじめてやるな。ハーティー、お前のその願い叶えてやる。ただ、これは、これからのお前の任務にも関わって来る事だ。私をガッカリさせてくれるなよ。」
「はっ、はい。」
(閣下と再戦出来る。)
何よりもその言葉が嬉しくて、ハーティーは敬礼も忘れて返事をしていた。
「ハーティー、敬礼は?」
メリアがジト目で突っ込む。
「申し訳ございません。」
「やれやれ。メリア、言っていた別室用意してあるな。」
二人の行動を見て、呆れたように言ってからメリアに聞く。
「閣下、用意はしてありますが会議室で宜しいのですか?」
「構わん。訓練場では目立つからな。それと障害物がある際の行動も把握しておきたい。そこも考えての事だ。訓練用の銃器も手配してあるな?」
「はい、その辺に抜かりはございません。会議室に全て用意してあります。」
「実戦を想定しての事だ、メリアお前にも付き合って貰うぞ。」
「わ、私もですか!?」
面白そうに言うウォレアの言葉に、メリアは驚いて聞き返す。
「命令だ。」
「かしこまりました。」
メリアは【命令】の言葉を聞くとあっさりと了承する。
(やはり、このお二人は只者では無いとの噂だったが、間違いない。)
やり取りを見ていたハーティーは内心でそう思っていた。


・・・メディカルセンター外科病棟・・・
「ハミル、大丈夫かにゃ?」
ミャオは回診で回ってきていて、心配そうに枕元に立ちながら聞いた。
「はい、まだ痛みますが、大丈夫です。チャオ先生の方は如何ですか?」
「うん、私はまだ変な夢だけ見るけど、それ以外は問題無しだにゃ。一昨日から手術も段階的にやってるけど何ともないにゃ。」
「良かった・・・。いつっ」
ハミルは少し傷みで顔をしかめながらも、笑いながら呟いた。
「ふみゃみゃみゃっ!?お、大人しくだにゃ。」
ミャオは慌ててワタワタしながら言う。
「はい。なるべく早く回復してミャオ先生の下に戻りますね。」
「うんっ、待ってるにゃ。だけど、くれぐれも無理はしちゃ駄目だにゃ。」
「ふふ、はい、患者は先生の言う事に従います。」
ウインクしながら言うミャオに、ハミルは微笑み返しながら答えた。
「そりじゃあ、これで行くにゃ。お大事にだにゃ。」
「はい。」
ハミルは去って行くミャオを見送っていた。
(私は大丈夫だけれど、ミャオ先生が本当に狙われている張本人。どうにかしたいけれど、私はこんなだし・・・。でも、私が元気だったとしても何も出来なかった。むしろ私が一緒に居ると足手まといになってしまう。どうすれば良いの?)
仰向けになって天井を見上げながら、ハミルは少し涙ぐんでいた。

「う〜にゅ・・・。」
ミャオは回診を終えてから、休憩室で唸っていた。
(実験体って私の事を言っていたにゃ。部長は隠していたけど、あの男は軍の人間だって事は分かったにゃ。だけど、それ以上は調べる手立てが無いにゃ・・・。)
難しい顔をしながら、腕組みをして深刻に悩んでいた。
『ミャオ先生。休憩中すいません。』
「にゅ?どうしたにゃ?」
ネームプレートから呼び出しが掛かって、ミャオは不思議そうに聞いた。
『ミャオ先生宛にお客様がお見えになっているんですが、如何しましょうか?』
「お客さん?名前は名乗ったかにゃ?」
『はい。セプテイルさんと仰っておりますが。お知り合いですか?』
「・・・。」
(傭兵さん、だったかにゃ?にゃんで私宛に???)
ミャオは思わず黙って、考えてしまう。
『どうしましょう?お帰り頂きますか?』
「にゃ!?知り合いだにゃ。迎えに行くから引き止めておいてにゃ。何処に行けば良いにゃ?」
問いかけに我に返って、言ってから慌てて聞いた。
『でしたらば、第3受付の奥にある第2控室でお待ち頂く様に手配しますね。』
「3−2だにゃ、分かったにゃ。すぐに向かうにゃ。」
(これはまたと無いチャンスかもしれないにゃ。)
ミャオは座っていた椅子から飛び降りて、受付の方へ歩いて行った。


・・・ヴィーナ自室・・・
「一週間してもタイレル総督に連絡すらして来ないだなんてどう言う了見なの・・・。」
ヴィーナは怒りを押し殺しながらも握りこぶしを握って言っていた。
「まあまあ、ヴィーナさん落ち着いて。」
フィオはそんなヴィーナの両肩を軽く叩いて落ち着かせようとする。
「だって、フィオ。私に対してだったら分かるわ。別に連絡よこさなくたって。でも、タイレル総督からの直接の呼び出しにもかかわらず、ハンターズとして一週間も連絡すらよこさないなんておかしいでしょ!?」
「ま、まあそうですけど。」
(ヴィーナさん顔が近い、近い!)
既に鼻と鼻が触れている状態で、納得の行かないヴィーナは怒りをぶつけるように言う。
「考えられるのは二つ。一つはラグオルへ降りていて仕事中。もう一つは俺等の考えがビンゴって事のどっちかですよ。」
何とか自分から引き離しながらフィオは冷静に言う。
「最初はまあ、分かるわ。でも、後の方だと何故?」
ヴィーナは不思議そうな顔をして聞く。
「だって、准将ですよ?軍の将校がただでさえ仲の悪い総督府へのこのこ出て行けますかね?それに、その位の地位だったらスケジュールも詰まっている可能性あるだろうし・・・。もしかしたら、案外スケジュール調整とかで総督府と軍で裏では話してて折り合いが付いてないのかもしれませんよ。」
「・・・。」
ヴィーナは言っている事は分かっていたが、最後の部分では納得が行かないと言う顔をしてフィオを睨みながら黙り込む。
「俺にそんな顔されたって困りますってば。最後のは、例えばの話ですから。あの事件以降静かになったんですから、総督府に行って直接タイレル総督に聞いてみたらどうです?」
「そうね、フィオの言う通りだわ。ごめんなさい、イライラしてた・・・。」
困った顔をして言うフィオに、ハッとしてヴィーナは気まずそうに謝る。
「いえ、俺も不用意でした。ここじゃあ、情報を収集するのにも限界ありますし、ヴィーナさんは総督府へ。俺は両親と自宅へ戻るのが良いんじゃないかと思います。」
「そうね。私は早速準備して総督府へ向かうわ。フィオの方はご両親と相談して決めて頂戴。」
「了解です。相談結果は後でメールしておきますんで。何かあったら、連絡下さい。ここなり、自宅なりで待機してますから。」
「わかったわ。頼りにしてるわフィオ。」
チュッ
「えっ!?」
突然頬にキスされたフィオは驚いて目をぱちくりしていた。
「うふふ、じゃあ、行ってくるわね。」
「いって・・・らっしゃい・・・。」
悪戯っぽく笑ってヴィーナは部屋を出て行った。フィオの方はまだ呆気に取られたまま返事だけはしていた。