動き出す者達(中編)



・・・メディカルセンター 外科外来・・・
「ミャオ先生、今日の患者さんはこれで終わりですよ。お疲れ様でした。」
「んにゅ〜、今日は少ないにゃ〜。」
ミャオは電子カルテを横目で見ながら言った。
「そうですね。まあ、健康な方が増えていると思えば嬉しい事かと。」
ハミルはにこやかに微笑みながら言う。
「確かにそうだにゃ。ねえ、ハミル。」
「はい?」
「今日この後暇かにゃ?」
「ええ?今日は夜勤ありませんし。」
ハミルは不思議そうにミャオに答えた。
「そりだったら、買い物とかに付き合って欲しいんだにゃ。どうもここ数日メディカルセンターの外に居る間、誰かに見られ照る感じがして気味が悪いんだにゃ。」
ミャオは苦笑いしながら言う。
「ミャオ先生、可愛いですからねえ。でも、変な風に見られているのは気になりますね。私で良ければご一緒しますよ。実害が出そうな気配だったら、ハンターズにでも護衛をお願いした方が良いかもしれませんね。」
「ありがとにゃ。でも、そんな物騒な事にならないと良いにゃ〜。」
真剣に言うハミルの言葉に、ミャオは何とも言えない顔で呟く。
「そういえば、ここ数日身元不明の変死体が運び込まれてると聞いたのですけれど、ミャオ先生ご存知ですか?」
「うん。全部じゃないけど何人かの件は立ち会ったりしたけどにゃ。内密にって部長に言われたにゃ。」
「我々看護婦の間では噂でしかなかったんですが、本当だったんですね。」
ハミルは、難しい顔になって腕を組みながら唸った。
「ハミルだから話したけど、こりは内緒だにゃ。」
ミャオの方は唇に人差し指を当てて、小さな声でぼそぼそ言う。
「分かりました。そうすると、データなんかも極秘扱いなんですかね?」
「ん〜?そこまでは分からないにゃ。だけど、普通の電子カルテに無いとは思うにゃ。正直おかしな感じも受けたしにゃあ。」
「おかしな感じ、ですか?」
首を傾げながら言うミャオをみて、不思議そうに聞く。
「うん、数が多いのもあるんだけどにゃ。同一犯のものっぽい痕跡もあるんだけど、それが複数見られるんだにゃ。つまり、複数の犯人やグループが事件を起こしている事になるにゃ。だけど、そんな話ニュースで一切やってないんだにゃ。」
「ああ、確かに言われて見れば運び込まれた数が多いのに、殺人事件として扱われてないですよね。」
ミャオの言葉に納得したようにハミルは頷く。
「噂だけど、軍の方から報道規制が掛かってるらしいにゃ。そりでここに来ない一部の遺体が軍とか、何故かラボが持って行ってるって話だにゃ。」
ミャオは辺りをキョロキョロしてから、ハミルに耳打ちする。
「総督府やここメディカルセンターは軍とは折り合いが悪いですから、報道規制が掛かっても一部が流れてもおかしくないですよね?それに、軍が関与しているのは分かるとしても、ラボですか?」
ハミルの方も、自分のつけているヘッドセットを外してからミャオに耳打ちする。
「部長が言い難そうにしてたから、もしかするとメディカルセンター内にも何か力が及んでるのかもしれないにゃ。そりと、ラボはパイオニア2では独自機関として働いてる所もあるみたいだから何らかしら関与しているのかもしれないにゃ。」
「メディカルセンター内にというのは穏やかではありませんね・・・。ラボはハンターズとも関係が少なからずあるようですし、軍とも関係のある機関ですから、一見中立の立場で何かを画策しているのかもしれませんね。」
「・・・。」
「・・・。」
お互いに真剣な眼差しで暫くの間無言で見合っていた。
「ミャオ先生、やめましょう。買い物に行きましょう、ね?」
「うん、そうだにゃ。じゃあ着替えてロビーで待ち合わせしようにゃ。」
「はい、分かりました。では後程。」
二人は、軽く言い合って手を振り合って別れた。

(・・・やはりあの情報で、メディカルセンターの中に調査の手が回っていると見て間違いなさそう。それでここ連日の不可解な変死体の持ち込みに情報操作、軍やラボの動き・・・。ミャオ先生の見られているというのが関係ないと良いのだけれど・・・。)
ハミルは着替えながら、難しい顔をしていた。
「部長に問い質すしかないのかにゃ〜?」
一方のミャオの方も難しい顔をしながら着替えていた。
(あの多くの変死体の身元の多くは、不明になっていたにゃ。患者の名前が分かったにもかかわらず、住所や何かが伏せられていたのか、データベースに無かったのか・・・。そんなのばっかりだったにゃ。)
ここ数日で立会いや、自分が行った行動を振り返りながら、少し首を傾げていた。
(きちんとした死因なんかを特定する検死解剖までやったのに、その報告がメディカルセンター内で止まっているのもおかしな話だにゃ・・・。そりとも、総督府にあがってるのに、そこで止められているのかにゃ?でも、どちらにしても何でそんな事をするのかが分からないにゃ・・・。)
「ふにゃ〜。情報不足もあるけど、私の頭じゃさっぱり分からないにゃ。」
ミャオは苦笑いしながら悔しそうに呟いた。
「うんっ、とりあえず考えるのはやめにゃ。買い物たのしむにゃ〜♪」
着替え終わってから、ミャオはそう自分に言い聞かせるように元気に言ってから廊下へ出て行った。


・・・パイオニア2軍中枢部・・・
ウォレアは真っ暗な自室で、既に帰ったメリアの置いて行った情報にも目を通しながら、いくつもの端末を同時に開いて見ていた。
「軍内部も動き始めたか・・・。マザー計画の残り火再燃、それとその飛び火といった所か。」
(レオとWORKSの件は上から直接命令が来るまでは見てみぬ振りをするとして、こちらは放置しておけんな・・・。軍、ラボ、メディカルセンター。更に総督府やハンターズ、ブラックペーパーがこちらに絡まられると厄介だな。分散する手を打たねばならんか。それと同時にミャオを保護せねばならんな。)
ウォレアは顎に手をやって、モニターを見ながら思案していた。


・・・ヴィーナ自宅・・・
「来ている連中にどうもばらつきがあるな。多分雇い主は一ヶ所じゃねえな。」
メビウスは皆の方へ自分の意見を言った。
「元々が軍の機密情報だから、軍は動いてるのは間違いないとして他にどこが動くんだよ?」
フィオに呼ばれて来ていたハオが聞いた。
「そこまでは俺はわからねえ。やり口なんかから見てそう思うだけだからよ。逆にそっから先は、ヴィーナや優秀なお前の息子に任せりゃ良いんじゃねえの?俺は来たのを追っ払うだけだしよ。」
あっさりと言うメビウスにハオは何とも言えない顔になる。
「まあ、そのうち来る事が無駄だって分かるさね。それまではここで世話になって、その後にでもフィオやヴィーナに任せれば良いんじゃないのかい?」
フェリアーテはハオに納得させるように言う。
「ヴィーナに任せるってのは良いんだけどよ。こいつ何か役に立つのか?」
ハオはフィオを見ながら周りに聞く。
「情報面では今までもかなり協力して貰って助かっています。現場での戦闘は厳しいと思いますが、バックアップの面では頼りにしています。」
「ふ〜ん・・・。」
ヴィーナの言葉にハオは信じられないと言った表情でフィオを見る。
「何だよ・・・。」
フィオの方は不機嫌そうな口調になってジト目でハオを見返す。
「お前見たいな馬鹿息子を、お世辞でも褒めてくれるんだなと思ってな。」
「何だと!クソ親父っ!!!俺をどうこう言うのは勝手だけどな、ヴィーナさんがくだらねえお世辞なんて言う訳ねえだろっ!」
フィオは怒ってハオに掴み掛かった。
「やめなって。全くもう・・・。人様の家で喧嘩するんじゃないよ。恥ずかしいね。」
フェリアーテはあっさりフィオを引き剥がしながら呆れたように言う。
「随分と賑やかだねえ。とりあえず皆の分も食事用意したから食べておくれ。」
奥からヴィクスンが沢山の皿を器用に持って入って来る。
「おお〜、腹へってたんだ。飯食ってから細かい所はお前等で詰めろや。ここに来る連中は全部足止めすっから心配すんな。フェリーもハオも遠慮しないで食ってくれ。」
豪快に食べ始めるメビウスを見て、他の皆も少し遅れて食べ始めた。

食事が終わった後、ヴィーナとフィオは別室で今まで起きている事件についてまとめていた。
「分かっているだけでこれだけの事件を起こすというのは、確かに単独犯ではなさそうね。」
「しかも、俺等みたいな人間の居所をあっさり見つけられるってのも解せません。」
「そして、最大の謎は事件として公になっていない事・・・・。」
ヴィーナはそこまで言うと黙り込む。
「今回、ここに来た何人かはメディカルセンターへ搬送されていますから、数日間で何も表に出なければ、メディカルセンターか総督府のどこかで情報が止められてる可能性を考えた方が良いですね。」
フィオの方は冷静に言う。
「総督府の内部の件はヴィーナさんにお任せします。俺は先にメディカルセンターを情報面から調べて行きます。そうすれば、どこで誰が止めてるかが分かると思います。そこから先は証拠固めとして俺は情報を、ヴィーナさんは最後の詰めをお願いします。」
「分かったわ。今すぐに動くのは得策ではないから、数日様子を見ましょう。多分私には呼び出しは掛からないと思うから・・・。」
(多分、首謀者は総督府の中に居る・・・。)
ヴィーナは良い終わった後、複雑な表情をしていた。


ショッピングモールに来て買い物を済ませた、ミャオとハミルはご機嫌だった。帰りにバーに寄って、酔っている状態だった。
ただ、やはり周りから見られているという感覚は消えていなかった。
「はにゃ〜。よっらにゃ〜。」
ミャオはそう言いながら、フラフラしている。
「ミャオ先生大丈夫ですか!?」
それを支えながら、心配そうにハミルが聞く。
「にゃははは、らいりょ〜ぶ、らいりょう〜ぶらにゃ〜♪」
ケタケタ笑った後、呂律の回らない口調で言ながら、自分の胸を軽く叩くとバランスを崩して倒れそうになる。
「もう、こんなに酔っちゃって。」
(だけど、逆に言うとこんな状況だからこそ酔いたかったのかもしれない・・・。)
受け止めた後、苦笑いしてハミルはミャオの事を見ていた。
「にゃっ!?」
(何にゃ?この感覚!?)
「えっ!?」
急にミャオが声を上げたので、ハミルは驚いて見た。
ミャオは空を見上げていた。広い宇宙空間に星がきらめいている。
「ミャオ先生、どうかしましたか?」
「ハミル。あれ何だにゃ?」
ミャオは空の一点を指差す。ハミルはそこを見てみるが何も無い。
「あれ?とは?」
分からないハミルはミャオに聞き返した。
「あの隕石だにゃ。」
「隕石?すいません私には見えなくて・・・。」
ハミルはいくら見ても何も見えないので、申し訳なさそうに謝る。
「あれ・・・ラグオルに落ちるにゃ・・・。」
「えっ!?」
「ラグオルが呼ぶにゃ・・・。ううん、ラグオルの底に居るものが・・・。」
「ミャオ・・・先生?」
急に口調が変わったのに驚いて、ミャオを見えると瞳の焦点が合ってない。
(どういう事!?)
「ミャオ先生、しっかり!何言ってるんですか!?」
「きっと・・・大騒ぎに・・・なるにゃ・・・。」
ハミルが呼びかけながら何回か揺さぶった後、ミャオはそれだけ言うと気絶してしまった。


ほぼ同時刻、隕石接近の報告が観測所から総督府へと伝わった。
報告の中には、隕石は大きく軌道がずれている為、パイオニア2関連施設やラグオルに衝突などの影響は無いというものも含まれていた。