隕石落下


「隕石のデータ来ました。リアルタイムで現在位置を捉えています。う〜ん、ちょっとラグが発生していますね・・・重いのかな?」
そう言いながら、ユーリは部屋の中に隕石のデータを映し出した。
隕石の形などを含めた現在位置の情報画面と、ラグオルとの位置関係を示した画面とに別れていた。

「あの、ユーリさん。ラグオルで砂漠っていうと何ヶ所もありますか?」
「ん〜、そうね。ちょっとデータは古いけれど、ラグオルの地表地図があるわ。ちょっと待ってね。」
そうすると、隕石の画面とは別の所にラグオルの地表データが現れる。
「委員長、更に砂漠近くで曇ってる所とか、雨振りそうな所を絞り込んでくれないかな。」
「砂漠近くでですか?雨なんて降るような所まず無いと思うんですけれど?」
キャネルの更なる注文に、怪訝そうな顔をして言うユーリ。
「あの、その、ユーリさん。私の夢が正夢だったらっていう話なんです・・・。」
言い難そうだったが、ナイルは思い切って言った。
「どういう事か話してくれるわよね?室長も足りない所あったら補足して下さいよ。そういう事だったらそうだって先に言って下さいよ!もうっ!」
「すっ、すいません・・・。」
ナイルは気圧されて、思わずその場で頭を下げて謝る。
「良いから話す!」
「は、はひっ!」
怒りながらも間髪入れず言うユーリにシャキンとなってナイルは夢の話をし始めた。そんな中で、キャネルの方はジッと部屋に映し出されているデータを真剣な眼差しで見つめていた。


『ミャオ先生宜しいですか?』
「うん?どうしたにゃ?」
夜勤のミャオは夕飯のおかずのエビフライを咥えながらネームプレートの呼び出しに答えていた。
『急患なんですが、今内科の先生が手一杯で良かったら対応をお願いしたいのですが。』
「にゃ?私以外にも救急に近い所に居ないかにゃ?」
『それが・・・軍の関係者らしくて・・・。』
言い難そうに小声で向こうから聞こえてくる。
「そういう事かにゃ・・・。今休憩室だからちょっと時間掛かるけど、うるさいのは何とか黙らせてにゃ。」
(他の先生に断られて、私に回ってきたんだにゃ。)
察したミャオは苦笑いしながら答えていた。
『はい、宜しくお願いします。いらしているのが、第6救急処置室です。』
「分かったにゃ。すぐ行くにゃ。」
(さらばにゃ、私のエビフライ・・・。)
ちょっと寂しそうに残ったエビフライを見てから、ミャオは休憩室を飛び出した。

シュイン
「お待たせしましたにゃ。」
ミャオは処置室について中に入ると、強面の人間が何人か居る。浮遊担架に寝かされているのはメリアだった。
(にゃっ!?にゃんでメリア大佐がここにいるにゃ?)
驚いたミャオは思わずその場で少しの時間固まっていた。
「すいません先生、私が軍医です。メリア大佐は本日の記者会見の後倒れられまして、倒れた直後は心肺の数値がかなり不安定で、軍までは持たないと思ってこちらにお連れしたのです。今は安定していますので、診て頂いても宜しいでしょうか?」
「当然ですにゃ。調子の悪い患者さんを診ないなんて事はしませんにゃ。患者さんのあるだけのデータを下さいにゃ。」
「将校ではありませんが、大佐と言う立場がありますので情報は出来るだけ内密にお願いします。」
「別に身体と病気などに関わるデータ以外要らないにゃ。先に言っておくけど、逆にデータ不足で何かあっても責任は持てないにゃ。」
強面の男に見下ろされて言われるが、ミャオは見上げてピシャッと言い返す。
「これが、メリア大佐のデータです。後は宜しくお願いします。」
「にゃ?軍医さんは残らないのかにゃ?」
データチップを差し出す軍医に、ミャオは不思議に思って聞いた。
「私はここにお連れするように言われたのですが、その後はメディカルセンターの先生に任せるようにとも言われているもので。」
「それじゃあ、私が来るまで冷や冷やしただろうにゃ。お疲れ様ですにゃ。一緒の連れの男性は外で待っててにゃ。女性も離れても問題ないなら外で待ってて欲しいにゃ。」
「では、私はこれで。」
軍医と一緒に男性の護衛は処置室から出て行った。ただ、女性の護衛は残ったままだった。
「悪いけど、看護婦の邪魔にならないように、そっちの椅子か浮遊担架に座っててにゃ。これ、すぐにデータをカルテ化してにゃ。現在数値で乱れている所は無いかにゃ?」
「はい。」
「特にありません。」
近くに居る救急の看護婦がてきぱきと動く中、護衛の女性は黙って邪魔にならないように指定された椅子に座った。

「ふ〜にゅ。寒気かにゃ〜。」
電子カルテを見ながらミャオは唸っていた。
(状況を聞くとショックで気を失う位強烈だとしたら、発作的なものかも知れないにゃ。今は安定しているから良いけど、発作が来たら不味いかも知れないにゃ。)
「本人に聞きたいけれど聞けないから、ちょっと聞くけどにゃ。メリア大佐は過去にも同じような倒れ方した事あるのかにゃ?」
「私の知る限りでは、そのような事はありません。とは言え私が存じているのはここ5年ほどですが。」
「ふにゅ〜。過去の病歴全部ロック掛かってて分からないから何とも言えないんだにゃ。」
女性の護衛の意見を聞いてから、ミャオはお手上げというポーズを取りながら言った。
「そうですか・・・。」
「聞いた話だと強い発作のようなものだから、今は良いけど、また発作が来たら危険かもしれないにゃ。さっきの軍医さんも若いから知らないだろうしにゃ〜。」
困った顔をしながら、一応護衛の女性には自分の見解を述べた。
「私も今日の記者会見見てたけど、調子悪そうな感じは見受けられなかったんだけどにゃ〜?」
「そこに関しては、私も同意見です。大佐は会場撤収の後、移動の予定でしたし、倒れる寸前まで周りに的確に指示を出していましたから。倒れられたのは驚きましたし、意外でした。」
「一応、栄養剤の点滴をゆっくり落とすにゃ。忙しさで体が休養を求めているかもしれないからにゃ。他の先生にも診て貰って総合的に判断させて貰うにゃ。」
「宜しくお願いします。」
ミャオの言葉に、女性の護衛は頭を下げた。


「はぁ・・・ヴィーナさんはメディカルセンターに入院で俺はバイトの依頼も来なくてやる事なし。あ〜、暇だ〜。」
フィオは椅子に寄り掛かりながら、溜息混じりに言っていた。
ピピッ、ピピッ
「おっ!仕事かな〜っと。って、ハーティー?」
相手を見て不思議に思いながらも、フィオは出た。
『兄上・・・。』
「よう、元気でやってるか?」
(何か様子が変だな?)
フィオはそう思いながらもいつものように話し掛けた。
『はい、お陰様で。あの、それで母上は居ますか?』
「ん?お袋?居るけど、どうした?」
『呼んでいただけませんか?』
「何で俺との直通使ったんだ?直接家に掛けりゃお袋が出た筈だぞ?」
『すいません兄上。母上を・・・。』
「ああ、分かった。」
深く聞けずに、回線をそのままにしてフィオは急いでフェリアーテを呼んで来た。
「お袋連れて来たぞ。」
『すいません兄上。母上、今私はラグオルに居るのですが、その・・・変な気配が満ち溢れているのです。何故かそれを体中に感じてしまって。どうして良いのか分からないのです。』
「なんだそりゃ?」
フィオはハーティーの言っている意味が分からずに、首を傾げる。
「そうかい。あたいの血を継いじまったんだねえ。ん〜、困ったねえ。とりあえず今は我慢して、どうしても我慢出来ないようだったら体調不良って言ってパイオニア2に戻して貰いな。良いね?」
『はい、ありがとうございます母上。私が何か変な訳ではなかったのですね。』
「何言ってんだい。そんな事気にするんじゃないよ。任務無理しない程度に頑張りなよ。嫌だったらいつ帰って来ても構わないからね。」
「お袋・・・。」
真面目な顔をして言うフェリアーテの顔を見て、フィオは思わず呟いていた。
「フィオ、あんたからも何か言っておやり。」
「ああ。ハーティー無理だけはすんなよ。いつでもここに掛けて来て良いからな。」
『はい。二人ともありがとうございます。それでは、私は任務に戻りますので失礼します。』
その言葉で、向こうから通信が切れた。
「なあ、お袋。今言ってたのどういう事だ?」
「そうさね。一種の特殊な力っていえば良いのかねえ。あたいはもう大分力が弱くなったけど、悪しき者に対する力・・・。」
「ハーティーは今そういう力が強くて、力を感じてるって事か?」
「そういう事だね。ラグオルでまた、何かが起きようとしているって事かねえ・・・。」
フェリアーテは苦笑いして言っていた。
「俺は何の力にもなれないのかな?」
「そんな事無いよ。今だって力になったんだよ。ヴィーナは大分調子良くて、早くに退院できそうだってメビウスから連絡貰ったから、ね。」
少ししょんぼりしながら言うフィオの頭を撫でながら、フェリアーテは優しく言った。
そんな様子を、離れた所からハオは静かに見守っていた。


(砂漠の近くで曇りとか雨なんてある筈が・・・。)
「あっ・・た・・・。」
ユーリは言った後、思わず端末を叩いていた手が止まっていた。
「ユーリさん?」
突然動きの止まったユーリを不思議に思って、ナイルは呼び掛けた。
「ナイルさんこっちこっち。雨降り始めたよ。」
「えっ!?」
キャネルに言われてナイルが見ると、砂漠の近くで確かに雨が降り始めているのが、データで流れてきていた。
「事前に分かっていたとしても、人が奪おうっていう人の命は救えても、流石に隕石までは止めれる訳ない・・・。二人とも見て下さい。隕石が軌道を変えてる・・・。」
信じられないといった表情で、隕石のデータを指差しながらユーリは言った。
「うげ、マジで変わってる・・・。」
「夢の通り・・・。」
3人は思わず隕石の動きを追っていた。


「呼んでるにゃ・・・。」
「えっ!?」
ミャオの言葉に、思わず後から来た内科医がキョトンとした顔になる。
ゾクゾクッ、ガバッ
「はっ!?」
「大佐っ!」
目を閉じていたメリアは寒気で起こされて、寝た体勢から起き上がっていた。それに驚いて、護衛の女性は立ち上がって辺りを警戒する。
「ミャオ先生!どうなさったんですか?先生っ!?」
様子のおかしくなったミャオに内科医と看護婦が必死に呼びかけるが、ミャオの瞳の焦点があってなくあきらかにおかしなままだった。
「隕石が・・・落ちるにゃ・・・。」
ミャオは無機質な声でいう。
「隕石・・・。きっとそれだわ・・・。貴方、早く閣下に連絡を。隕石が落ちるって伝えて!」
「はっ!」
メリアは襲ってくる寒気と戦いながら、傍に居る女性の護衛に命じた。
「ミャオ先生!しっかり!」
「先生・・・ミャオ先生の脈拍ありませんっ!」
「何ですって!?」
(何で動けて話せるの!?)
看護婦の言葉に内科医が驚きの声を上げる。
「私を・・・呼ぶ・・・にゃ・・・。」
ミャオはそれだけ言うと気を失う。
「そっとしておけば、その先生は多分平気よ。うぐっ、私も限・・界・・・。」
メリアも真っ青な顔で物凄い量の脂汗を垂らしながら言った後、ミャオの後を追うように気絶した。
「メリア大佐っ!」
連絡を取っていた、女性の護衛は慌ててメリアの上半身を抱え込んだ。
その後、処置室の中は騒ぎになっていた。


(来る!?)
ハーティーはハッとして空を見上げると、離れた所へ隕石が落ちていくのが見えた。


「隕石か・・・。」
ウォレアの呟きとほぼ同時に、ラグオルに隕石が落下した。