記者会見


・・・会見会場・・・
「では、これより5年前のラグオル爆発事故について緊急会見を行います。」
メリアの言葉で生中継の会見が始まった。そこには、何人かの将校に混じってウォレアとその隣には軍服姿のセプテイルの姿もあった。


ラボでは早朝の爆発事故で騒ぎになっていたが、ナイルの遺伝子工学室への正式な異動が終わっていた。
挨拶を終えた後、ナイルはすぐに研究室の研究員達と馴染んでいた。
そんな中、キャネルの方は今朝の爆発事故の件で、自室に篭ってナターシャと通信で話をしていた。
「チーフ、これで終わりにして下さい。もうこれ以上は俺等が踏み込む域を超えてしまっていると思うんです。」
『なるほど。』
キャネルの言葉にナターシャは静かに答える。
「俺等はまだ進む事は出来るかも知れませんが、これ以上の犠牲は出したくありません。今朝の生物生態室長の件で片は付く筈ですよね。そこから先はチーフの力でお願いします。」
モニターの向こうに居るナターシャに頭を下げながらキャネルは真面目に言った。
『わかりました。今回の件はこれで幕引きにしましょう。キャネル室長、ユーリとナイルをお願いします。貴方は良くても二人の動き次第によってはどうなるか分かりません。』
「ユーリは問題ありませんし、ナイルはユーリに全く頭が上がりません。流石にあれだけ恐い思いをすれば自制もすると思います。逆にその時は本人が覚悟をするしかないと思いますんでチーフにお任せします。ただ、現時点では守って下さい。」
冷静なナターシャの言葉に、頭を上げた後少し苦笑いしながらキャネルは言っていた。
『では、先程受け取った最終報告でラボ内の連続爆破事故については終息した事にします。後はいつも通り研究に励んで下さい。』
「はい、それでは失礼致します。」
向こうから通信が切れてキャネルはホッとして椅子に寄り掛かった。
(ふぅ、これでようやく収まったか〜。)
安堵の溜息をつきながら天井を見上げた後、静かに目を閉じた。

「あっ、軍の緊急記者会見やってるよ。」
「どれどれ?」
「あっ、鉄の女じゃん。うわ、珍しい!鋼の鬼もいるよっ!」
研究室の方では中継を皆でわいわい騒ぎながら見ていた。
「ぁ・・・ぅ・・・。」
そんな中で一人ナイルは、中継画面に映っているセプテイルを見て騒ぎの塊から少し離れた所でガタガタ震えていた。
「ナイル、こっち。」
それを見て、すかさずユーリがナイルを連れてキャネルの部屋へ入って行った。
シュイン
「あれ?どうしたの?ナイルさん調子悪いの?」
キャネルは入ってきた二人の様子を見ながら聞いた。
「今軍の会見が生中継でやっているんです。そこに・・・セプテイルが居るんです・・・。」
「げっ!?マジ!?」
ユーリの言葉にキャネルは驚いて思わず聞き返してしまう。
「あぅ・・・はぅ・・・。」
ナイルの方は今朝の事もあって、その場でただガタガタ震えながら涙ぐんでいた。
「とりあえずチーフから身の安全の確約は取ったよ。二人と俺が余計な事言ったりしなければ問題なし。ナイルさんも落ち着いて。生中継なんだから、セプテイルはあっちに居る訳だしね?」
「ふぅ、良かった。この件に関しては室長の仰った通り変な好奇心は起こさない事。良いわねナイル?」
「はひっ、誓います。」
キャネルの言葉とユーリの言葉に、何度もブンブンと頷いてナイルは答えていた。
「まあ、どういう事なのか。どうなるのかは見届けておいた方が良いかな?委員長?」
「そうですね。5年前の爆発事故をどう片付けるのかは知っておいた方が良いと思います。私としては、今朝ここに居たくせにいけしゃあしゃあとという思いはありますが・・・。」
ユーリは答えながら不機嫌になっていた。
「ユーリさんは今朝、姿を見たんですか?」
「ええ、モニター越しだけどね。ちゃんとそのデータは消しておいたわ。」
「恐く・・・なかったんですか?」
恐る恐るナイルは聞く。
「恐く無かったって言ったら嘘になるわ。でも、あの時も言ったけど室長と貴方を守らないとっていう気持ちが強かったから。それと、私自身としては舐められてたまるかってね。」
ユーリは少し笑いながら言う。
「流石は委員長だよな。俺は恐いとかいう前に諦めてたからなあ。情けない事にあの時点では俺自身の部屋で少しは篭城しようとかいう考えさえ思い浮かばなかった。」
キャネルは感心して言った後、苦笑いして頭を掻いていた。
「まあ、終わった事です。とりあえず、会見見ましょう。」
ユーリの言葉にキャネルもナイルも頷いて三人で会見を見始めた。


「以上のように、爆発事故は軍内の一部の組織によって意図的に起こされたものでした。改めて被害者の方々にはご冥福をお祈りし、ご遺族の皆様にはこの場でお詫び申し上げます。」
そのメリアの言葉に、将校達を含めて軍側にいるもの全員が一斉に頭を下げる。
「被害者の一人として亡くなった事になっていたセプテイル特務曹長が奇跡的に生還しましたが、数日前まで爆発事故の後遺症か記憶を失っていました。しかし、ここ数日でその記憶が戻り、そのお陰で事実が白日のものとなり今回の記者会見に繋がりました。」
メリアは堂々とした態度で、原稿など見ずにスラスラと説明していた。
「尚、被害者のご遺族の方には、軍より追加の保証金を出させて頂く予定になっております。重ねて関係者の処分に関しても後日決定し次第発表させて頂きます。以上でこちらからの説明は終わりますが、質問のある方がいらっしゃいましたら所属とお名前を仰って頂いた後お願いします。」
メリアのその言葉に会場に来ていたマスコミからは、セプテイルの事を中心に質問がされ始めていた。


・・・メディカルセンター・・・
「セプテイル、英雄扱いだにゃ・・・。」
「そうですね。これでは軍に戻らざるを得ないですね。」
ミャオとハミルは会見を見ながら呟き合っていた。
「やっぱり、あの座ってるウォレア准将が私を助けてくれたハンターズのウォレアと同一人物だと思うにゃ。それにメリア大佐。セプテイルに選択肢は無かったんだにゃ・・・。」
「ミャオ先生・・・。」
ミャオの言葉に、ハミルは何とも言えない顔になる。
「ハミルがどこか出先の医療機関に居たとして、私にメディカルセンターに戻って来て欲しいって言ったらどうするにゃ?きっとそれ以上のものもあるんだと思うにゃ。だから、セプテイルを許してあげてにゃ。」
「大丈夫ですよ。もう怒っていませんから。」
「良かったにゃ。とりあえず、今診ている患者さんの一人がハンターズの幹部みたいだから今後の事はちょっと相談してみるにゃ。」
「そうですね。それが良いと思います。セプテイルさんはここまで有名になったらおいそれと外に出れないでしょうからね。会えなくなるというのも冗談ではなかったのですね。」
「ちょっと寂しいけど仕方ないにゃ。セプテイルはこれで良かったと思うにゃ。」
ミャオは少し寂しそうに笑いながら言った。

「どうだヴィーナ少しは楽になったか?」
「うん、もう体の方は大丈夫。ミャオ先生のお陰です。」
メビウスに聞かれてヴィーナは微笑みながら答えた。
「良い先生に見て貰えて良かったね。」
「チャオおばさんをちょっと思い出すけど、やっぱり別人。ただ、可愛らしい外見でとても頼りになるのは同じかな。」
ヴィクスンの言葉にヴィーナは少し嬉しそうに言った。
「チャオは俺等よりかなり年上だったけど、あの先生はヴィーナよりも年下らしいぞ。ただ、メディカルセンターでずっと医者やってっから経験はかなりのもんなんだろうけどな。」
「え?私より年下なの?てっきり上かと思ってた・・・。」
ヴィーナは意外そうに言っていた。
「何か軍が会見やってるみたいだけど、見るかい?」
ヴィクスンが、メビウスとヴィーナの二人に聞く。
「俺はどっちでも良いや。どうするヴィーナ?」
「一応今後の任務に関わることかもしれないから見ておこうかな。」
「それじゃ映すよ。」
ヴィクスンはそういうと、三人で見れる位置に画像を映し出した。


「質問も全て出終わりましたので、以上で会見を終了させて頂きます。」
メリアの一言で会見は締められ、映像での中継は切れた。
会場ではマスコミ関係者がセプテイルにしつこく食い下がろうとしていたが、上層部の将校やウォレア達と早々に出て行っていた。
「質問には全てお答え致しました。これ以上の取材等は正式に軍へ許可を得てからお願い致します。」
マスコミ関係者の前にはメリアが立ち塞がり、その一言でそれ以上の騒ぎにはならなかった。
会場の表では、先に将校たちが用意された車で去っていくのを見送ったウォレアと、そのの護衛、そしてセプテイルが残っていた。
「私の護衛は良い。メリアの方を頼む。」
「はっ。」
「はい。」
一緒に乗り込もうとする護衛に言ってから、無言でセプテイルを車に引っ張り込んだ。
そして、車は会場を後にして発車した。
「教官、酷いですよ。あたしを晒し者にして・・・。」
セプテイルは少しムッとしながら文句を言った。
「そう言うな。私とメリアなりの配慮だ。これで、お前がミャオやハミルに対して吹っ切る事が出来るだろう。会見を見ていたであろう向こうも然りだ。」
ウォレアは目の前で拗ねているセプテイルに言い聞かせるように静かに説明する。
「そういう事だったんですか・・・。はぁ・・・確かにそうですね。お見それしました。」
セプテイルは苦笑いしながら頭を下げていた。
「それで、ラボの方はどうだった?」
「失敗した内通者は消しましたが、そこから繋がっていたであろう者達三人は仕留め損ないました。」
ついさっきまでと違い、急に真面目な空気になる。
「お前が仕留めそこなうような奴が、ラボに居るのか?」
ウォレアは失敗を咎めるよりも、その事実に驚いて聞いていた。
「部屋にフィールドを張れるのが分かって、手が出せませんでした・・・。不覚でした。すいません・・・。」
「構わん。別に腕で敵わん訳ではなかろう?」
「それは問題ないと思います。」
「ならば、後でその場所から出た時に理由を付けて片付ければ良い。誰かさえ分かっていればそれだけで十分だ。」
「ご配慮ありがとうございます。」
ウォレアの言葉に、セプテイルは深々と頭を下げた。
「今回は格別だ。私の元へ戻ってきた祝いの一つとしておこう。今後は許されんぞ。」
「はっ。」
「この後は軍の英雄帰還記念パーティーだ。もう少し下らん余興に付き合ってくれ。」
「閣下の意のままに。」
そう言って、頭を垂れる。
「フフフ。」
セプテイルの返事を聞いて、彼女らしからぬ行動にウォレアは少し笑った。