断罪の後で


「ぅ・・・。」
セプテイルは痛みで目が覚めた。
「お疲れ様、セプテイル。閣下のお話では傷口が開くらしいから、痛いだろうけど動かない方が良いわ。」
「メリア・・・。」
(こんな優しい表情しているメリア見たこと無い・・・。)
セプテイルはメリアの表情を見て目をぱちくりしていた。
「何て顔しているんだか。誤解だけは解いておきたくて閣下にお時間頂いたの。」
「ハルトの・・・事だね。」
「ええ・・・。」
その名前が出ると、セプテイルもメリアも暫く黙ったままになる。
「私ね、来月彼と結婚する予定だったの・・・。」
「ぇ・・・。」
(結婚!?)
複雑な顔をしていうメリアの言葉に、セプテイルは驚いて固まる。
「本気で、本当に好きだった・・・。でも、私も貴方も騙されて利用されていただけなのよ・・・。」
メリアは少し俯きながら言う。その瞳から床には涙が落ちる。
「あたしだって好きだった・・・。そっか・・・騙されてたんだ。何であそこに居たのか・・・教官が・・・事件の首謀者だって・・・まだ・・・信じられないよ・・・。」
セプテイルの視界の天井が歪んで、涙が溢れる。
「私は貴方に譲るつもりだったの。だけど、利用するには自分よりも地位が上の人間である私の方を上手く引き寄せた。馬鹿よね、私はそれを自分の魅力と誤解していた。貴方の方が若いし、私よりも魅力的なのにね。貴方が戻れない理由になったのと、私と閣下をラグオルに降ろさせなかったのは、最後に止めを刺した中将閣下。そこにも彼は一枚噛んで居たの・・・。本当にごめんなさいセプテイル。許してだなんて甘い事は言わないわ。見抜けなかった馬鹿な私を笑って頂戴・・・。」
説明した後、切なそうに笑う。その顔もセプテイルは見た事が無い顔だった。
「あたしはメリアに譲る気なんて無かった。メリアが立場を利用して無理矢理付き合わされてるってハルトは言っていた。メリアならやりかねないってあたしは本気で思ってたし信じてた。そういうのも全部利用されてたんだね・・・。笑えないよ・・・。メリアもそういう顔出来るんだね。あたしとは違う魅力持ってるんだよ。あ〜あ、あたしの方が馬鹿みたいだよ。」
セプテイルは言った後、苦笑いしていた。
「最後も、私はハルトに引き金は引けなかったと思うの。辛い選択をさせてしまってごめんなさい。」
「良いよ。事務方なんだしさ。教官、メリアの事分かってたし、実行部隊のあたしにさせたのは正解だったと思うよ。まあ、あたしも辛かったけどさ。そんなに謝んないでよ。あたしの方が困るって。」
さっきから頭下げっ放しで謝るメリアに、セプテイルは苦笑いしながら言う。
「今だけの素直な気持ちだから。それを分かって欲しいから・・・。閣下にだってこんな顔見せないわよ。」
「そっか。許すとか今は判断出来ないけど、誤解は解けたよ。今だったら言っても良いよね。メリア可愛い。」
「年上をからかうんじゃありません。」
言われたメリアは少し笑いながら返していた。
「それじゃあ、私はこれでね。セプテイル、帰って来て・・・。」
「メリア・・・。」
部屋から出て行こうとするメリアに声を掛けたが、メリアは一切振り向かずに出て行ってしまった。
そして、入れ替わりにウォレアが入って来た。
「教官・・・。」
「待たせてすまんなセプテイル。手短に済ませよう。質問は一つだけだ。私の元に戻るか?」
ウォレアは寝ているセプテイルに短く聞く。
「教官、ミャオちゃんとハミルちゃんへお別れを言いに行かせて貰えますか?」
「構わん。」
「だったら、あたしからのお願いです。正式に軍に戻して下さい。そうでないとミャオちゃん達ときちんと別れられそうもないんで。」
「私からすれば願っても無い事だ。出来るだけの階級を用意して戻してやる。」
「それならば、教官・・・いえ、ウォレア総司令官の元へこのセプテイル戻る事をここで誓います。体が動かないので言葉だけでの誓いはお許し下さい。」
セプテイルは真面目な顔になって言った。
「その誓い確かに受け取った。その回復用の培養カプセルで一日もすれば完治するだろう。それからすぐに行って来い。それまでに、準備をしておく。それで良いな?」
「はい。あの・・・それと・・・。」
「手土産ぐらいはきちんと持たせてやるから安心しろ。」
「あはは。あたしが心配するまでも無いですね。宜しくお願いします。」
「ゆっくり休め。」
ウォレアがそう言うと、寝ていたベッドがカプセル状に変わって行き、中が液体で満たされていく。セプテイルはゆっくりと目を閉じて体全体で液体を感じていた。
(後はハーティーがどうなるかと、セプテイルの帰還をどう演出するか、か。)
培養カプセルが液体で満たされたのを確認して、ウォレアは部屋から出て行った。
「メリア、セプテイルは軍に戻る事を誓った。演出はお前に任せる。私は爆発事故で招集された会議に一人で向かう。明日にはセプテイルがミャオへ別れを告げにいく。その後でどうするのかを細かく決めろ。私の事は自分でやる。メリア宛のものは私に回して構わんから、今はそれだけに集中しろ。良いな?」
「かしこまりました。では早速部屋に篭らせて頂きます。失礼致します。」
ウォレアの言葉に敬礼して、メリアは去って行った。
「さて、何も知らん上の連中の慌てた顔でも見に行くとするか。」
メリアを見送った後、ウォレアはビームアイを細めながら呟いて歩き始めた。

将校だけが揃った上層部の会議は紛糾していたが、人数が減ったとはいえ大きな任務の無い特殊部隊総司令官のウォレアに調査依頼をする事で幕を閉じた。

ウォレアの方は部屋に戻って照明もつけずに真っ暗な中椅子に座っていた。
(ラボの方が気になる・・・。)
ピピッ、ピピッ
「何だ?」
『失礼致します。メリア大佐への通信なのですが、メリア大佐からウォレア准将閣下へとの事でお回ししました。』
ウォレアの問いにオペレーターが説明する。
「相手は誰だ?」
『ラボのチーフ。ナターシャ・ミラローズ様からです。』
「分かった、回してくれ。」
『はっ。』
オペレーターの返事が終わり、画像が入れ替わるとナターシャが映し出される。
『お久しぶりです。ウォレア准将。』
「久しぶりだな、ナターシャ。」
『このような時間に申し訳ありません。メリア大佐に相談をしようとしたのですが、取り込み中との事とウォレア准将の方が話が早いとお伺いしましたので。』
「私に眠るという事は無いから、時間に関しては構わんのだが。それで、どんな事かな?」
『今ラボ内で軍の方が色々なさっているのは承知していますが、メリア大佐の事前の説明があったので黙認しています。ただ、その核心に迫ろうとしている者が居て、不味い事になっています。』
「つまり、こちら側の者でへまをやらかした者が居るという事だな。」
『言い難いですが、そういう事になります。私がカバーできるのには限界があります。ラボの中でも優秀な研究員が多数居るので、変に感付かれて大きな騒ぎになる前に何とかして欲しいのです。』
「分かった。すぐに手を打とう。メリアは今こちらの騒ぎで手一杯なのでな。私の方からすぐに手配する。へまをやらかした者のデータだけ貰えれば、数日中に片をつける。それで良いかな?」
『はい、お願いします。それでは失礼します。』
通信が切れてウォレアは送られてくるデータを待った。
(ナターシャからの直談判では、やむを得んな。流石に研究者だけの塊のラボでは氷のナターシャでも抑えるに抑え切れんか。)
データを見てから、ウォレアはセプテイルの居る医療ルームに連絡を入れる。
「すまんが、セプテイルの回復を急いでくれ。朝までに頼む。」
『かしこまりました。』
(セプテイルには復帰前に一仕事頼まねばならんな。)
相変わらず真っ暗な部屋の中で、ウォレアのビームアイが少し細くなった。

・・・次の日 朝 軍医療ルーム・・・
セプテイルは、カプセルから出て体の調子を確かめていた。
「うんっ、快調、快調っと。」
『セプテイルさん。ウォレア准将が参られるようです。』
ガラス越しに軍医から放送で言われる。
「はいよっ。ありがと。」
(あたしの回復を急がせたって聞いたけど、ミャオちゃんのお別れ以外にも何かあるって考えるのが妥当だよね。)
答えながらも、セプテイルは少し難しい顔になってウォレアが入ってくるであろう入口の方を向いて立って待っていた。
シュイン
少ししてドアが開くと、昨日とは違い正式な軍服姿のウォレアが立っていた。
「体の調子はどうだ、セプテイル?」
「お陰様でバッチリです。」
ウォレアに聞かれて、体を動かしながら答える。
「そうか。悪いが外してくれ。」
『はっ。』
軍医の方は言われて管理ルームから出て行った。
「さて、セプテイル。とりあえずこれがミャオへの手土産だ。それと、復帰前に一仕事頼みたい。」
「何なりと。ってうわっ、こんなに貰って良いんですか!?」
渡された資料と一緒に報酬を見て驚くセプテイル。
「足りんか?」
「違いますよ。逆です、逆!」
思わず興奮気味にセプテイルは言う。
「それだけ、私はセプテイルと言う人間を買っているという事だ。」
「教官・・・。」
(もう、こういう所が人を引き付けるんだよなこの人は・・・。)
内心で参ったという感じでセプテイルは半分呆れて、半分感心していた。
「傭兵としては受けられないだろうが、やってくれるな?」
ウォレアは静かに聞く。
「勿論です。ただ、これなんですが、明日でも良いですか?」
「どういう事だ?」
セプテイルの意図が分からずにウォレアは聞き返す。
「標的が今居るのはメディカルセンターです。どうやら今日の午後退院するみたいですからラボに戻った時が良いかなと。」
「ふむ、そうだな。メディカルセンターで騒ぎを起こすのは得策ではないな。そこはお前に任せる。明後日には戻ってこれるか?」
「ご命令とあらば、明日にでも戻ります。」
「無理はしなくて良い。明日中に片付けて、明後日にはお前の正式な出迎えをするようにしておく。これをお前に渡しておく。軍内にはそれを見せれば私の所まで来れるようになっている。」
「ありがたくお借りします。では、早速メディカルセンターへ向かいます。」
「メリアは取り込み中だからな。入口まで私が送ってやる。まだ、お前には細かい権限がない。外まで出る事もかなわんだろう。」
「恐れ入ります。」
(本当に教官があたしを送ってくれちゃうの!?)
真面目に挨拶していたセプテイルだったが、内心では驚いていた。
そのまま、ウォレアに送られてセプテイルは軍の入口まで来ていた。ウォレアの警護の軍人も何人か居たが、ウォレアは邪魔そうにしていた。
「では、セプテイル。頼んだぞ。」
「はい、ではまた後日。」
あえて、敬礼せずにセプテイルは答え一礼だけして去って行った。
「お前達もう良いぞ。さっさと持ち場に戻れ。」
「はっ!」
ウォレアの言葉に周りに居た警護の軍人たちは散って行った。
「やれやれ、居ても邪魔なだけだ・・・。」
ウォレアは溜息混じりに呟きながら歩き出した。

そんな頃、メリアは自室でセプテイルが戻ってくる為の準備をしていた。
それと同時に今回の軍内での爆発事故の件も一緒に処理していた。その中でハルト中佐の死亡データが目に入る。
「馬鹿な私・・・。くぅ・・・うぅ・・・。」
手が止まって呟いた後、涙が頬を伝って落ちた。