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・・・三日後・・・

「閣下、焦らせ過ぎだったのでは?」
少し心配そうに、メリアが聞く。
「本来ならば、もう少し早く行きたいとは私も思っては居たがな。今日で無いと不味い。」
「何故ですか?」
「今日は、ハーティーがハンターズとしての試験を受ける日だからだ。」
「それは心得ておりますが、理由が見当たりません・・・。」
「ふふっ、簡単な事だ。ハンターズとしての私に会いたいと熱望している人間からハーティーを極力離す為だ。」
「ヴィーナですか。確かに彼女は若くしてハンターズの幹部になって活動していますが、そこまで危険視する程の存在でしょうか?」
ウォレアの言葉に、メリアは少し意外そうに聞いた。
「事件の後に、タイレルをせっついて私に合わせろと最初に言って来たのはヴィーナだ。予想では、既に私の正体を知っていると思う。ただ、確たる証拠が無いだけに、向こうも強く言えずに歯痒いのだろう。」
メリアの問いに少し面白そうに答える。
「閣下、それをご存知で総督府へ?しかも、ヴィーナとお会いするのですか。危険ではありませんか?」
「確かにな。メリアの心配も分かる。だがな、逆に核心に踏み込まれるよりは良い。それに、私にはお前が居る。どんなに頑張った所で私の正体の証拠は掴めん。軽くからかってこちらへ気を逸らせてハーティーには上手く任務を遂行して貰うだけの事だ。」
「お戯れは程々に願います。それと、別件なのですが、ご依頼頂いたセプテイルの件で気になる情報が・・・。」
「ん?セプテイルがどうした?」
「実は、事件後ミャオと何度も接触しているようなのです。」
「それは不味いな・・・。あの場で消すべきだったか・・・。今日の一つの行動は多分奴の差し金だ。」
ウォレアのビームアイが細くなって、真剣な感じになって言う。
「それは、もしや、メディカルセンターの看護婦との面会の件でしょうか・・・。」
「そうだ。流石はメリアだな。まあ、いい。軽く釘を刺せば、セプテイルも考えるだろう。」
「不安因子を放っておいても宜しいのですか?ヴィーナとは比較にならない位危険です。それに、ハーティーの任務にも支障をきたしかねません。」
「案ずるなメリル。セプテイルは今軍人ではない。傭兵だ。絶対的な存在はあっても、居はしない。逆にメリル、お前の方が気をつけろ。お前とセプテイルは浅からぬ因縁があるからな。」
「金さえあれば誰にでもなびく、ですか・・・。分かりました。閣下のご迷惑にならぬよう最善を尽くします。」
メリアは何か意を決したような顔になって返事をする。
「変な気だけは起こすな。私はお前を失いたくは無いからな。」
「閣下・・・。」
「さて、そろそろ行かねばな。遅刻しては総督府やタイレルに恩を売れなくなる。そうだ、メリア、今回の件に関しての軍内の処理は昨日の報告書通りほぼ終わったと見て良いんだな?」
「はい、明日には全て軍内は片付きます。残念ながら私ではラボの方には手は伸ばせないので少し心配ではあります。」
「分かった、軍以外は私が掌握する。ラボの方には既に何人か潜らせてあるから、これでその連中とコンタクトを取ってくれ。今日情報を貰う約束になっている。頼んだぞメリア。」
そう言って、部屋を出る寸前にウォレアはデータチップをメリアに投げる。
「はい、行ってらっしゃいませ。」
メリアはチップを受け取ってから、ウォレアの事を見送った。


・・・総督府・・・
(ついに、会える・・・。)
ヴィーナは色々な想いが胸の中でグルグルと回っていた。
(後・・・30分・・・。)
部屋にある時計を見てから、いつに無くソワソワしていた。

別室では、ウォレアとタイレルが向き合って座っていた。
「総督。とお呼びすれば良いかな?」
「ここでは、そう願いたい。」
ウォレアの問いに、タイレルは少し厳しい顔をしながら答えた。
「ここだけの話をしたいから、わざわざヴィーナに会わせる前にここへ私を呼んだのだろう?それこそ、ここに長居したら、また可愛い部下からの質問攻めにあうだけだと思うが?」
「ならば、短刀直入に聞こう。今回の件に関して何故ハンターズとして名乗った?それと、ハンターズとして何故私の召喚を断り続けた?」
「先に後者から答えよう。忙しかった。私の正体を知っているのだ、これだけで分かるだろう?前者については答える前に質問をさせて貰いたいが構わんか?」
「ふむ・・・。」
タイレルは、少し眉をひそめながら頷いた。
「私が身分を明かして、街中でドンパチやっているハンターズは民間人を守れなかったと、マスコミに叩かれたかったのか?」
「その民間人を撃った人間が軍人だとメディカルセンターから報告が上がって来ている。それをやらせたのは軍では無いか。それをもみ消す形で結果助けた事になったのではないのか?」
「タイレル・・・。質問をしているのは私だ。ならばその質問に対して答えて問う。私は連中が軍の連中などとはあの時点で知らなかった。これが答えだ。そして、その事実を何故公表しない?そういう話があれば、私の来る日も早くなった可能性もあると思うが?」
少し不機嫌になった感じで、ウォレアは言う。
「そうか・・・。狙われた理由も分からずに、その事実を明かしたとて関係ないで押し切られると思ったからだ。」
「乱戦になっている途中で、一人の民間人が既に撃たれていて、もう一人はそれを見ているしか無い状態だった。その時に助けられる者は私以外ハンターズでは誰も居なかった。その体たらくぶりは別に構わん。ただ、あの時私が居なければ、民間人の一人は死んでいたかもしれんし、もう一人もどうなっていたか分からん。私が殺した三人以外の一人にも、もう一人は危うく刃物で脅されたまま連れて行かれる所だった。そういう事実があった事は忘れるなよ。別に私は今からでも正体を明かして全てをマスコミに話しても構わんぞ。」
タイレルの言葉を聞いた後、ウォレアは挑発的に言う。
「本気か?ウォレア准将・・・。」
「別にメディカルセンターからの事実を公表してくれても構わん。全面的に争ってやるぞ。タイレル、傷みが大きいのは総督府の方だでは無いのか?触れられたく無い部分もあるだろう?例えば、誰から頼まれて、大人数で民間人を守っていたのか。とか・・・。」
「何故それを・・・。」
タイレルの表情が言葉と共に厳しくなる。
「私はなタイレル。上の意向もあり今回の件は穏便に済ませたい。軍内は一枚岩では無くてな。そちらの公表が無くとも明後日に謝罪会見が行われる事になっている。私がこれからヴィーナと会った後、民間人の一人と会う事になっている。そちらも、出遅れず叩かれんようにと私からの配慮だ。皆まで言わずとも分かるな?」
「ふう、分かった。ヴィーナは真面目で腕も頭も良い。ウォレア准将、彼女にはある程度で勘弁してやって欲しい。」
タイレルは溜息をついた後、軽く頭を下げながら言う。
「相手の出方次第だが、そこまでされてはな。その言葉は、特殊部隊総司令官・ウォレア准将として受け取った。モニタリングはしているだろうからな、止めに入る等はそちらに任せる。では、時間もそろそろ不味いだろう。私はヴィーナに会いに行く。では失礼する。」
ウォレアはそう言って、部屋から出て行った。
「軍にあいつが居る限り、昔のように簡単にはいかんか・・・。」
出て行った後、タイレルは苦笑いしながら呟いた。


シュイン
「お待たせした。」
ウォレアは既に座っているヴィーナに声を掛けながら部屋に入った。
「いえ、お忙しい所、良く来て下さいましたね。どうぞそちらへ。」
ヴィーナは微笑んで言いながら、正面の席をすすめた。
「早速なのですが、事件の事についてお伺いしたのです。」
ウォレアが着席したのを確認してから、ヴィーナは切り出した。
「二人の民間人の方には話は聞いたのかな?」
「いえ、まだメディカルセンターから了解を得られていないもので聞けていない状況です。そこで、何があったのか良く分かっていない所もありウォレアさんをお呼びした次第です。」
(やはり、セプテイルの差し金か・・・。)
ウォレアは自分の質問に答えるヴィーナを見ながら確信していた。
「そうなのか。てっきりもう話が付いていて、私を呼んだのは話のすり合わせだと思っていた。そうなると、この後民間人の片方に会いに行く事になっているのだが、ハンターズとしてではないという事か・・・。」
「えっ!?これから?」
(どういう事?)
ヴィーナは驚いて席から立ち上がって聞いてしまっていた。
「そうだ。この後、看護婦の方へ会いに行く事になっている。まあ、向こうからの依頼なのだが、その様子だと知らなかったようだな。」
「ええ、今初めて聞いて驚いています・・・。」
ヴィーナは動揺が隠せずに、少し震えた声で言っていた。
「ハンターズに話は通っているものだと思って居たんだが、そういう訳ではなかったという事のようだな。もしくは、貴方だけ知らなかったのか・・・。」
「どういう・・・意味です?」
最後の意味ありげな言葉に、ヴィーナは敏感に反応して聞き返す。
「どこにでも、やっかむ者はいるのではないか。という事だ。まあ、若くて優秀なヴィーナ殿にそんな事はありえんか。周りに聞けば済む事だろうし。」
ウォレアはビームアイを細めながら、挑発的に答える。
「そう・・・ですね。後で聞いてみます。」
(我慢・・・我慢・・・。)
ヴィーナは俯いて何とか自分を落ち着かせながら、言っていた。
「ところで、こちらからも聞きたい事が一つだけあるのだが良いかな?」
「はい?何でしょう?」
ウォレアから普通に聞かれて、ヴィーナは顔を上げて不思議そうな顔になっていた。
「私はあの事件の時に通り掛かって民間人二人を助けた訳だが、周りにも多くのハンターズがいたと聞く。元々誰かの依頼で二人を警護していたのかな?」
「依頼があったようですが、その辺がまだ不明確なのです。」
少し困ったようにヴィーナは答える。
「そんな不明確な依頼で多くのハンターズが動いていた訳か。まあ、結果的にはその警護依頼は正しかったという事になるが・・・。ヴィーナ殿はおかしいと思わないか?」
「そうですね。今回の件に関しては色々と不可解な事が多過ぎて困っています。」
ヴィーナはそう言いながらウォレアをジッと見る。
「それこそヴィーナ殿のような優秀な方の出番という所かな。とりあえず、私として言える事を先に説明させて貰う。聞いて貰った上で質問があれば答えさせて貰う。それで良いかな?」
「ええ、お願いします。実際に細かい事が分かっていないので助かります。」
ヴィーナの言葉を聞いてから、ウォレアは小型の端末を出して事件の詳細を話し始めた。

「以上があの場であった事になる。これはヴィーナ殿に差し上げる。私は元々一匹狼なのでな。上下左右の繋がりが皆無で渡す相手もいない。つまり、この事はタイレル総督も知らない。他の皆へはヴィーナ殿から説明して頂ければと思う。」
「分かりました。事件の詳細ありがとうございました。メディカルセンターから断られた理由も分かりましたし、これはお言葉に甘えて頂きます。」
すっかり落ち着いたヴィーナは微笑みながらお礼を言って、ウォレアから端末を受け取った。
「後は、何か聞きたい事があるかな?無ければ私はメディカルセンターへ行こうと思うのだが。」
「ならば・・・。お伺いします。」
「ん?何かな?」
「今回の件に関して、特殊部隊総司令官ウォレア准将閣下としては・・・どう・・・思われますか?」
(私・・・聞くだけなのに・・・緊張してる・・・。何故?)
自分で言葉が途切れ途切れになっているのに驚くのと同時に疑問に思っていた。
(ほう、そう来たか・・・。)
ウォレアはビームアイを細めた。
「軍で直接聞いてみたらどうかな?私はハンターズのウォレアだ。その問いに答えようも無い。」
(さあ、どうする?ヴィーナ?)
ウォレアは言った後で、様子を見る。
「それが出来れば・・・。少々お待ち下さい。」
一瞬握り拳を振るわせたヴィーナだったが、席を立って部屋を出て行ってしまった。
ウォレアはその様子を見送った後、腕を組んで静かに待っていた。
暫くして、ヴィーナが緊張した面持ちで戻って来た。
「お待たせしました。この部屋のモニタリングを全て止めてきました。」
「ふむ、それで?」
「なぜ、総督の召喚を断り続けたのですか?」
「忙しかった。それだけだ。」
素っ気無くウォレアは答える。
「そんな・・・ありきたりの答えを聞く為にモニタリングを止めた訳では無いわ!」
ヴィーナはそう言ってキッと睨む。
「だとしたら、まだ甘いな。耳を塞げ。」
「はい?」
「聞こえなかったのか?耳を塞げと言ったのだ。鼓膜が破れては話も聞けまい?」
ヴィーナは良く分からなかったが、両耳を手で塞いだ。
キィィィーーーーーーン!
パンッ!パンッ!パパンッ!
変な音がしたかと思うと、辺りで複数の破裂音が鳴る。
「くぁっ・・・。」
ヴィーナは思わずその場にしゃがみ込む。
「これで、本当にお望みの場所になったぞ。何が聞きたい?ヴィーナ。」
ゾクッ
いきなり雰囲気が変わって自分の名を呼ばれ、ヴィーナは背筋が寒くなった。
(凄い・・・威圧感・・・。でも、ここで引き下がれない!)
「貴方はウォレア准将なのですか?」
立ち上がってから、椅子に座り直して意を決するように聞いた。
「その答えを聞いてどうする?それがそんなに重要か?」
「・・・。質問を変えます。メディカルセンターの看護婦に会うと言っていましたが、それは本当に向こうからの依頼なのですか?」
「そうだ。命の恩人にお礼を言いたい。との事でな。それに合わせて、こちらにも来た。信じる信じないはそちらの勝手だが、さっきも言った通りこちらには既に話が通っていると思っていた。」
「なぜ話が来ていないと思いますか?」
「ん?そうだな・・・さっきの話を聞くにメディカルセンターの意向か、その看護婦の後ろに誰かがいるか。ハンターズで良ければ他の誰でも良い筈だ。だが、ハンターズには面会を断って、私だけとの面会を求めていると言う事はヴィーナと同じ考えの持ち主が他にも居るのかもしれんな。」
「私と同じ考え・・・。」
「同じような事を聞かれたりされるのかも知れん。」
真剣な表情になって呟くヴィーナとは対照的にウォレアは楽しそうに言う。
「何がおかしいんですか?」
少し不機嫌になって、ヴィーナは聞く。
「誰もあずかり知らぬ空間に、正体がまだ分からない相手と二人きり。もし、私がウォレア准将だったとして、この場でお前を口封じの為に殺しても何の証拠も残らない。違うか?」
「ぅ・・・。」
言われて、ヴィーナは答えに詰まる。
「タイレルの名誉の為に言っておく。私がこれからハミルという看護婦と会う事はタイレルも知らん。ここに来てさっき初めて言った。だから、もし内部を疑うのなら既に知っていた者を疑う事だ。それこそ、ウォレア准将の息の掛かったものかもしれんぞ。」
「はい・・・。」
(この人は・・・。あくまでも自分がそうではないと言うのね・・・。)
ヴィーナは色々言いたかったが、我慢しながら返事をしていた。
「お前は優秀だ、ヴィーナ。」
「な、何ですかいきなり?」
いきなりのウォレアの言葉に困惑してヴィーナは聞き返した。
「両親や、弟分、そして、リコを失ったタイレルを心配させてやるな。」
「それで、私に釘を刺しているつもりですか?」
「いや違う。この状況にした相手にこんな事を言っても釘を刺すと言う意味では無駄な事位分かっているつもりだ。警告・・・いや脅迫と言った方が良いかもしれんな。それが分からないのは、まだ若い証拠だ。ふふふ。」
「なっ!脅迫って・・・。」
(普通面と向かって、そのまま言う台詞!?)
ヴィーナは思わず呆気に取られる。
「良いかヴィーナ。やめろとは言わん。ただ、続けた時には犠牲者が出るという事だけ忘れるな。その犠牲者の中に自分が入る事もな・・・。」
ウォレアは静かに言う。
「脅しには屈しませんっ!」
「分かった、タイレルに言われているから手加減はしてやる。疑似体験をすれば、少しは言葉の意味も分かるだろう。」
そう言うと、ウォレアはゆっくりと立ち上がる。それを見て、ヴィーナも立ち上がってテーブルを挟んで睨み合いになる。
(この距離ではテクニックは使えない・・・。いえ、使ってもその間に・・・。ならば防いでみせる。)
ヴィーナは攻撃を諦めて防御態勢に入った。
(賢い選択ではあるが・・・。)
スッ
「えっ!?消え・・た?」
素早い動きに、一瞬で視界から消えたウォレアを探してヴィーナは気配を探る。
(動揺はしているが、無駄に動かないのは流石現場に居るだけの事はある。)
キンッ、キンッ、ズバァッ!
何発かは武器で受けたものの、途中で背中に痛みが走ったかと思うと、他にも数ヶ所から傷みと共に血しぶきが飛ぶ。
「ぅ・・そ・・・。」
(フェリアーテさんに力を込めて貰った上に、父さんが頼んで作って貰った特殊な神官服なのに、こんなにあっさり切れるなんて・・・。)
今まで無かった経験に、ヴィーナは驚きながら倒れた。
(力が・・・入ら・な・・い・・・。)
何とか立ち上がろうと動くヴィーナだったが、痙攣のようにあちこちがぴくぴく動いているのを感じれるものの、意思と反して体は全く動かなかった。
「変に動こうとしない方が良い。出血が酷くなるだけだ。私はメディカルセンターに行かせて貰う。もし、私に会いたければタイレルに頼め。片道切符を出してくれるとは思えんがな。」
ウォレアはそう言うと部屋から出て行った。
「く・・・。」
(何て強さなの・・・。暗に正体は明かしてくれたけれど・・・。)
考えようとしたヴィーナだったが、途中で気を失ってしまっていた。
少しして、ウォレアに言われたハンターズの一人によって傷だらけのヴィーナが発見され、総督府内は大騒ぎになった。