ファーストコンタクト

ピッ
「にゃっ!?」
ミャオは自分の頬に変化を感じて指を当てた。
(にゃっ?濡れてるにゃ?血?)
「ん?ミャオ先生どうかし・・・。」
ハミルはチャオの声に気が付いて声を掛けながら見てみると、赤いレーザーサイトがミャオの頭に複数映っているのが目に入って、言葉が止まって目を見開く。
「危ないっ!」
「にゅむぎゅっ!?」
即座にミャオを抱え込んで庇いながら倒れ込む。ミャオの方は訳が分からずに抱きかかえられたままだった。
チュチュチュチュン
複数の銃声が合図になって、乱戦が始まった。

『ウォレア様、検索出来た分と確認出来た個体数だけ先にデータを転送致します。分かり次第、随時転送致します。』
(暗殺者に、傭兵、軍人、ハンターズ、ブラックペーパー、ブラッディーネイル・・・50人ちょっとか。)
「随分居るようだな。今、始まった。メリア、照会分に私から送るデータも使え。良いか、このデータはオフラインの端末にバックアップを取ると同時に消去しろ。それと、変な気配や予感がしたら、端末は放棄して構わんから私の部屋から出て避難しろ。」
『はい、了解です。ご配慮感謝致します。』
「私は潰し合いが終わった辺りで動くが、これで通信を切る。」
ウォレアはそれだけ言うと一方的に通信を切った。
(あれだけ言えばメリアなら大丈夫だろう。しかし、ここまで多くの連中が関わっているとはな・・・。)
メリアから送られてくる照会されたデータを細かく確認しながら、ウォレアは思ったより騒ぎが大きい事に危機感を抱いていた。

銃撃戦だけでなく、その内完全に前衛同士の乱戦も始まっていた。
そんな中、ハミルはチャオを抱えて何とか裏路地に逃げ込んでいた。
「ハミル、一体何が起こってるんだにゃ?」
「私にも分かりません。ただ、ミャオ先生が狙われていたのは事実です・・・。」
「にゃんで私を・・・。」
ミャオは自分の頬に付いた傷を気にしながら呟いた。
「あの、もしかするとミャオ先生の同期の先生の変死事件と何か関わりがあるのでは?」
「にゃっ!?」
(ハミルの言う通りかもしれないにゃ。でも、私には逃げること以外どうする事も出来ないにゃ。)
ミャオは悔し涙を浮かべて唇を噛んだ。
「何となくですけれど、ミャオ先生を狙っているのと守ろうとしている?のでしょうか?何だか大きく二つが対立しているようにも見えます。」
「守る・・・かにゃ?」
何とも言えない顔で言っているハミルの言葉を聞いて、ミャオも不思議そうに言いながら乱戦の中心になっている場所を、そっと覗いていた。
カチャッ
「っ!?」
「動くな。」
いきなり後頭部に銃口を当てられて、ハミルは驚いて動こうとするが、それを静止するように無機質な声がする。
「ハミ・・ル。」
ミャオが振り向いて声を掛けようとして、その状況が目に入って言葉が止まる。銃を突きつけているのは見た事の無い若い男だった。
「この女の命が惜しかったら、我々に従って貰おうか。実験体。」
相変わらず無機質な言葉で言うと、後ろの暗闇から黒尽くめに覆面姿の二人が現れる。
「にゃ?実験体?」
(まさか・・・あのデータを知っている!?)
ミャオは訳が分からないと言う顔で誰の事を言っているのかとキョロキョロして言うが、ハミルは内心で以前消えたメディカルセンターサーバーのデータの事を思い出していた。
「分からぬのならそれでも構わん。後で教えてやる。さあ、大人しく従って貰おうか。さもなくばこの女の頭を射抜く事になる。」
「にゅぅぅ。」
相手に言われて我に返ったミャオはどうして良いか分からずに困って唸った。
「脅しでは無いぞ。」
チュンッ
「くはっ。」
頭からずらして若い男は何の躊躇も無くハミルの肩口を射抜く。ハミルは声を上げてから、苦しそうに肩口を押さえる。
「ハミルッ!」
ミャオは叫んで駆け寄ろうとするが、後から現れた二人に抑えられて動けない。
「ミャオ・・・先生・・・。逃げて・・・。あれをやった連中だったら・・・私は・・・助かりません・・・。」
「余計なおしゃべりはそこまでだ。」
パシュッ、パシュッ
「かっ・・・はっ・・・。」
ドサッ
若い男は持っていたのとは違う銃を出して、2発撃つとハミルは力なく倒れる。
「ハミルーー!!!」
カチャッ
「大丈夫だ。急所は外してある。言う事を聞いて着いてくるなら命は助けてやってもいい。だが、断るのならこの場で頭を射抜く。さあ、どうする?」
ミャオはシタバタ暴れて叫ぶが、ハミルは反応しない。そのハミルの頭に銃を突きつけながら若い男が聞く。
「くぅにゅぅう・・・。」
(今までハミルには色々助けて貰ったのに・・・私はこんな時に何もしてあげられないにゃ。)
悔しさでポロポロと泣きながら、唇が切れるくらい噛みしめていた。
「もう一度だけ聞く。返答無い場合はこのまま撃つ。さあ、どうする?」
「行くにゃ。だから・・・だからハミルの命だけは助けてにゃ。」
ミャオはその場で土下座して泣きながら頼むように答えた。
「宜しい。その態度に免じて彼女は苦しまないように始末してあげよう。」
そこで初めて若い男の無機質だったものが嬉しそうな声に変わる。
「にゃっ!?止めてにゃーーー!!!」
ミャオが叫んだ時、その目に一瞬白いものが映った気がした。
ゴトッ
ズズズッ・・・ゴトッ
最初に若い男の両腕が落ちて、その後時間差で斜めに体が切断面で滑って地面に落ちる。
「!?」
ミャオは何が起きたのか分からずに、思わずぽかんとしてしまう。しかし、次の瞬間に背中に凄まじい圧迫感を感じる。
ゴトッ、ゴトッ・・・プシャーーー、ドサドサッ
後ろを振り向いた瞬間、両脇に居て自分を抑えていたものの首が落ちて噴水のように血が飛び出した後、そのまま自分を掴んでいる手から力が抜けて一体は後ろへ、一体は膝を突いてから前に倒れる。
(一体、何が起こってるにゃ???)
ミャオは訳が分からずにキョロキョロしてしまう。
「その娘を庇ってやれ。」
突然真横の上から声がして、ミャオはビクッとして固まる。
「まだ、周りに敵は居る。流れ弾に当たらん事を祈っていろ。」
ミャオが恐る恐る顔を上げると、そこには真っ白いヒューキャシールが一体立っていた。
「私の事よりも、あの娘ではないのか?」
「にゃっ!?ハミルっ!」
言われてハッとして、ミャオは倒れているハミルの元へ駆け寄った。急いで脈や呼吸を診て止血の作業に入っていた。
それを確認した、白いヒューキャシールは再びその場から姿を消した。


・・・ウォレア将校個室・・・
「ウォレア准将は居るかな?」
入口から、話を色々回した中将から声をかけられた。
「ただ今席を外しております。私で良ければ承りますが、如何致しますか?」
メリルはいつも通りの返答をする。
「ふむ、居ないのならば構わん。戻ってきたら私の所へ来るように伝えてくれ。」
「はっ、かしこまりました。」
「それと、メリル大佐。」
「はい?何でしょうか?」
「これから30分以内に帰り給え。」
「はっ、かしこまりました。わざわざ、直接のご訪問ありがとうございました。」
(30分以降は不味いと言う事ね。)
メリルは察して、上手く言葉をつけて返答とお礼を言った。
「ウォレア准将は本当に良い部下を持っている。それでは失礼する。」
「はっ。」
(後30分で片が付くと良いんだけれど・・・。)
答えながら、乱戦状態になっている現場のデータを見ていた。


「ふぅ、こりで応急処置は出来たにゃ。後はメディカルセンターに運んでいけば大丈夫だけどにゃ・・・。」
ミャオは周りの騒ぎがまだ続いてるのを感じて、複雑な顔をしていた。
「動かないで、子猫ちゃん♪」
ピクッ
女性の言葉と首筋に冷たいものを感じて、ミャオはちょっと動きそうになったがその場で固まる。
「ふふっ、良い子ねえ。大丈夫よ、そっちの子には興味ないからちゃんとメディカルセンターにつれて行ってあ・げ・る。」
相手の言葉に、ミャオは変に安心してしまってホッとしていた。
「さあ、立って。お姉さんと一緒に行きましょうね。」
「ふ・・みゃ・・・ぁ・・・。」
目の下端に刃物が見えて、ミャオは震えながら立ち上がる。
「そんなに恐がらなくても大丈夫。本当はこんな事したく無いんだけど。命令でね。ちゃんと目的地に着いたらしまってあげるから。」
「あ、あの・・・。にゃんで私・・・を?」
促されて歩き出す時に、ハミルが心配で横目で見ながら相手に聞いてみた。
「さあ?あたしもわかんない。ただ、貴方を連れて行けば良いお金になる。それだけよ。」
「お金かにゃ?」
「そう。これだけ大騒ぎになるとは思わなかったからふんだくってやるつもり。うふふふふっ。」
「そ、そりだったら、私がそれ以上のお金払ったら解放してくれるかにゃ?」
「う〜ん、そうねえ。でも、一般人じゃお金なんてさして持って無いでしょ?」
女性は一瞬考えたが、普通に聞き返す。
「これでも、私はメディカルセンターの外科医だにゃ。蓄えは結構あるにゃ。」
「むむっ、そしたら10万とか軽く出せる?」
「うん、100万くらいならポンと出すにゃ。」
「うむむむっ。どうしようかなあ・・・。」
ミャオの台詞に、女性は本気で考え始めて動きが止まる。
「今ビジフォンのナンバー教えてくれれば、先に50万振り込むにゃ。」
「なんとっ!?」
「そして、その後で50万入れるにゃ。これでどうだにゃ?」
「こ、交渉上手な子だな・・・。今回の雇い主はケチだから、乗り換えちゃおうっと。その商談乗った。」
そう言うと、女性はすぐにミャオにビジフォンのナンバーを教える。
「ちょっとだけ、私のビジフォン使わせてにゃ。」
ミャオはそう言うと、刃物を突きつけられたまま操作してあっけなく50万を振り込む。
「わお!OK、OK。」
女性は驚いた後、すぐに刃物をしまう。そして、正面に回ってしゃがみ込んでミャオと視線を合わせる。
「あたしは傭兵のセプテイル。宜しくね。お金の分働くからさ。さっきはごめんね。」
セプテイルはウインクしてミャオの手を握って握手しながら言う。
「にゃっ、よ、宜しくにゃ。」
ミャオは呆気に取られてそのまま握手されていた。
「ん〜、ハンターズに掌握されそうだなあ。本当は君をさらってお金貰おうと思ったけど、成功報酬より多いお金貰っちゃったからね。分も悪そうだし、私はこれで退散するね。んじゃっ!」
「待て。」
手を上げてセプテイルが立ち上がった瞬間、ミャオの後ろから声がする。
「うげっ!きょ、教官!?」
「教官???」
ミャオは訳が分からずに首を傾げながら、後ろに振り向いた。そこには、さっき見たヒューキャシールが、返り血や他の何かを浴びて立っていた。
「セプテイル。こんな所で何をやっている?」
「えっ?いやあ、そのぉ・・・傭兵という奴を・・・やってましてぇ・・・。」
そう言いながらセプテイルは後ずさる。
「今雇ったんだにゃ。」
「えっ!?」
ミャオの言葉に、セプテイルが驚く。
「そうか・・・。命拾いしたな。さっさと去れ。」
「はい〜。」
静かにヒューキャシールが言うと、セプテイルは物凄い速さでミャオから離れて闇に消えていった。
「死ねぇ、ヒャッハー!」
急にミャオの目の前に、一人の男が降りて来てミャオに襲い掛かる。
突然の出来事で、ミャオは相手を見てしまったまま動けなかった。
「死ぬのは貴様だ。」
目の前でそういう声と、何度かの光の軌跡を見たミャオに男の凶器が触れそうになった瞬間、男が肉片になってバラバラと崩れる。
切れた一部分から、血を浴びたが、ミャオは夢でも見ているようで目をぱちくりしていた。
そして、その視線にヒューキャシールが映った。見た事の無い、腕から出ている刃物から、血が滴っている。それが、腕にしまわれる様に消えて行く。
「にゃ・・・にゃ・・・。」
急にさっきから今までの事が一気にフラッシュバックして来て、ミャオは目を見開いたままその場で震え始めた。
(いかんな・・・。)
ヒューキャシールのビームアイが少し細くなる。
「これで、もう安全だ。」
そう言って、ヒューキャシールは手を伸ばす。
「ふにゃっ・・・嫌だにゃ・・・。」
ミャオはその場でぺたんと座り込んで、涙目でイヤイヤと頭を振りながら後ずさる。
「もう終わったんだ。」
ヒューキャシールは、しゃがんで落ち着かせようとして頭に手を伸ばす。
「ふみゃぁあ!こ、来ないでにゃ〜!」
泣いてそう叫んでから、ミャオは気を失って後ろに倒れ込む。それをヒューキャシールは抱きかかえる。
「ふぅ、ショック状態か。こう言う時はどうしようもない。」
ちょっと溜息混じりに言ってから、ミャオを抱えてハミルの倒れている場所へと移動していった。

「おいっ、大丈夫か?」
ハミルの所に来る頃には、ハンターズの一人と思われる人間が声を掛けて、それを守るようにキャストが銃を構えていた。
「こっちの知り合いのようだ。一緒にメディカルセンターへ連れて行ってやってくれないか。」
ヒューキャシールは、二人のハンターズに声を掛けた。
「あんたは?」
「私はハンターズのウォレア。近くを通りかかった時に騒ぎに巻き込まれてな。民間人の二人が襲われている所で一回割って入ったんだが、少し離れている内にこちらが連れて行かれそうになっていてな。助けて今こちらの様子を見に来たと言う事だ。」
「それは、お疲れ様です。我々は、そちらとこちらの民間人の護衛を頼まれていたもので助かりました。」
ウォレアの言葉に、キャストが答える。
「とりあえず、双方とも怪我をしているからメディカルセンターへ連れて行くのが良いと思う。私は別の仕事を請け負っているので任せても構わないか?」
「勿論。じゃあ、俺がこっち運ぶから、その子を譲り受けてくれ。」
様子を見ていた人間は快く返事をして、ハミルを抱えるとキャストへ指示を出した。
「了解。では、お預かりします。ありがとうございました。今回の件で別途報酬をお送りするかもしれません。」
キャストはミャオを譲り受けると、お礼を言って頭を下げた。
「いや、それには及ばない。その分を他で役に立ててくれれば良い。では、私はこれで失礼する。」
ウォレアの方は、軽く手を上げて言った後、軽く二人に一礼するとその場を去って行った。
二人は他のハンターズと合流しながら、メディカルセンターへミャオとハミルを連れていった。