五神将と白銀の魔女

ベリルエル達の248小隊は危機に瀕していた・・・。
「セッド!残りは?」
「上官殿と俺と後3人の計5人です!」
今年の冬はとても寒く雪の中の戦闘になっていた。
敵国のフェリッタには五神将と呼ばれる5人の将軍がいた。
その中でも現場の戦術においてはフェリッタの中だけでなく帝国内でも右に出ないであろうと言われているミハエル将軍が敵だった。
ミハエル・クーヘン。それが彼女のフルネーム。
女性でありながら現場からの叩き上げで上り詰めた人で人望も厚く腕も立つ。
大局での戦略には秀でていなかったが、現場での臨機応変さは目を見張るものがあった。
そんなミハエルを相手に248小隊を含めた第2大隊は既に大敗をしていて退却中だった。
「上官殿。ミハエルってあいつは化け物ですか?」
「かもしれん。凄まじい腕を持っているだけでなく側近を含め優秀だ。フェリッタとの戦争はまだまだ長く続きそうだ。」
ベリルエルはセッドを含め4人しか残っていない現実に厳しい顔付きになっていた。



「第2大隊には確かベリルエルとセッドという人間がいたわね。」
「はっ!」
ミハエルの言葉に側近が敬礼する。
「何とかこちらに引き込めないものかしら・・・。それが出来ないのならこの機に首を取りたいですわね。」
ミハエルは顎に手をやって思案を巡らせていた。



「隊長。俺の事は置いていって良いですから、先に戻って下さい。」
ベリルエルが肩を貸している新入りの一人が言った。
「馬鹿者。私は見捨てなどせん。絶対にな。」
ベリルエルは新入りに一喝した。
「それは、貴方が生きていればのお話ですわね。」
「!?」
突然後ろからした声にベリルエルもセッドも振り向く。そこには100人を越える兵士がずらりと並んでいた。そして、その真ん中にミハエルの姿があった。
「ミハエルか・・・。」
セッドは苦笑いした。
「さあ、ベリルエルにセッド、降伏なさい。そうすれば殺しはしません。それに、こちらでそれなりの待遇をさせて貰う用意もありますわよ。」
ミハエルの言葉には威圧感はなく。自然なものだった。
「残念だが、これでも私は帝国軍人の端くれだ。二君に使える気は無い。」
ベリルエルははっきりと言い切る。
「俺はどっちでも良いんだが、上官殿がそう言うんなら。付き合うだけだな。」
セッドはそう言って剣を構える。
「仕方ありませんね・・・惜しいですが。二人にはここで死んでもらいましょう。」
ミハエルは悔しそうな顔をしたがすぐにキリッとなって、部下達に攻撃の命令を下した。
「セッド。怪我人は置いて行けよ。」
「分かってます!金星取ってやるぜ!!」
セッドは一気に中央突破をしてミハエルを目指した。ミハエルを守ろうと部下達は前に立ちふさがるがセッドの勢いは誰にも止められなかった。
「道を開けなさい。私が直にお相手して差し上げますわ。」
一瞬ざわついたが一気にミハエルの前に道が開いた。ベリルエルには分かっていた。多分セッドも分かっているのだろう。あえて二人は言葉にしなかった。
「帝国軍248小隊副隊長、セッド・ビンセンス。行くぜっ!」
「フェリッタ五神将ミハエル・クーヘン。受けて立ちますわ。」
必死の形相のセッドと対照的に落ちつき払っているミハエルがいた。
勝負は一瞬の一回だった。
「ぐはっ!」
セッドはミハエルの一振りで脇腹を一気にもって行かれた上に思いっきり吹き飛ばされた。
「セッド!!!」
ベリルエルはセッドに駆け寄った。
「上官殿・・・やっぱりミハエルは化け物だ・・・。早く逃げてくれ・・・生き残って・・・他の奴を・・・頼みます。」
脇からの出血が止まらずセッドは苦しそうに言う。
「私との約束はどうした!私が死ぬまで傍にいるんじゃなかったのか?」
「すまねえ。痛えよ上官殿。そんなに揺らさないでくれ。」
セッドの言葉に興奮して我を忘れていたベリルエルは正気に戻った。
「約束は守られますわよ。ここで仲良く、ね。」
何時の間にかミハエルが二人の傍まで来ていた。
「ふふふ、そうだな。私から先に行かせてもらうぞ!」
そう言ってベリルエルはセッドを置いて。ミハエルに切りかかった。ミハエルはあっけなくかわして柄でベリルエルの背中を殴った。
「っ!!!」
凄まじい痛みと共にベリルエルは声も上げられずうつ伏せに倒れ込んだ。ミハエルはそれを確認してから、セッドの方へと近付いた。
「どうです、セッド。もう一度チャンスを与えます。目の前でベリルエルを失いたくは無いでしょう?説得してみません事?」
こんな状況でもミハエルは冷静で口調は穏やかだった。
「俺の一存じゃ・・・決められねえ・・・。上官殿に・・・聞いてくれ・・・。」
セッドは脇を押さえながら言った。
「ベリルエル。聞こえていますわね。降伏するならば。貴方を含めた5人の命助けましょう。それでどうです。話す事は出来ないでしょうから、首をどちらかに振って下さいな。」
ミハエルの問いに直ぐにベリルエルは首を横に振った。
「仕方ありませんわね・・・残念ですが。死んで頂きますわ。」
ミハエルはセッドに向かって剣を振り下ろした。
ガキンッ!!!!
「全く、何て様だい。」
振り下ろされた剣は途中で止まっていた。
「何者!」
ミハエルは一旦飛び退いて剣を構え直す。
「良いトコ育ちっぽいのに自分から名乗らないとはねえ。」
少しニヤリとして助けに入ったものは言う。その言葉に少し眉がピクッと動いたミハエルだったが直ぐに名乗りをあげた。
「フェリッタ五神将、ミハエル・クーヘン。貴方は?」
「へえ、あんたがミハエルか。あたいはザザーン。白銀の魔女、北の守護神とか言った方が分かるかもね。」
お互いに相手の名は良く知っていたが顔を合わすのは初めてだった。
「悪いけど今回はこれ以上あたいの前で誰も殺させはしないよ。」
そういうとさっきまでは少し温和だったザザーンの顔が一変する。
(嫌な予感がしますわ。)
ミハエルは瞬時に感じた。
「仕方ありませんわね・・・。お遊びが過ぎましたわね。退かせて頂きますわ。」
ミハエルの言葉に部下達は驚く。
「私が首を取ります!」
ミハエルの部下の1人がザザーンに突っ込むが途中で凍り漬けになって固まってしまう。
「ミハエル・・・。あんた本当に感が良いね。今回は見逃してあげるよ。」
冷たく言うザザーンを見てミハエルは顔には出なかったがかなりの恐怖感を憶えていた。
「お言葉に甘えさせて頂きますわ。」
そう言ってミハエルの部隊はその場から退いていった。
「今度会う時は本気でぶつかり合うね。きっと。ふふふ。」
そう呟きながらザザーンはベリルエルを助け起こした。
「も、申し訳ございません・・・。」
ベリルエルが続けようとするとザザーンは口に手を当てた。
「無理に話さなくて良いよ。あたいの部下にあんたとセッドは連れていかせるから。安心しな。」
ザザーンの言葉にベリルエルは頷いた。
「しっかし、酷い有様だったねえ。良くぞ生き残ったってとこだね。感謝は青海と蒼炎にしときな。二人に言われてここに来たからね。言われなきゃ来なかったからね。って気絶してるか。」
ザザーンは苦笑いしながらベリルエルを抱え上げた。
「さあ、他の4人も連れて帰るよ!」
「ははっ!」
ザザーンの一声でその場で軽く吹雪が起き、止むとそこには誰もいなくなっていた。



「ザザーン・・・。噂には聞いていましたけれどあそこまでとは思いませんでしたわ。」
ミハエルは退却中に呟いた。そして、また今度は激突すると確信していた。先程の恐怖感とは違い戦う高揚感をひしひしと感じていた。


フェリッタと帝国の前線は、まだ、雪が止む様子も無く、冬将軍も去る気配は全く無かった。