セッドのスランプ

248小隊はレーンが死んでから3度目の戦闘に突入していた。

セッドは焦っていた。レーンが死んだあの日から体が思う様に動かない。
「くそっ!どうしたってんだ!」
気が焦ってイライラが募るばかりで、体はそれを嘲笑うかのように動かない。
いつもなら避けられる攻撃が避けられず、逆に当る攻撃が当らない。
完全にスランプだった。
ベリルエルは分かっていたがあえて何も言わなかった。


「貴様が248のセッドか!」
相手の大将がセッドを見つけて声をかけた。
「ああ、そうだぜ。お前は誰だ。」
「俺はラゼブ。248の生き残りの貴様とベリルエルは俺がここで息の根を止めてやるぜ。」
自信たっぷりにニヤつきながら言う。
「けっ、てめえなんぞ上官殿どころか俺に勝てる訳ねえだろ。寝言は寝てから言いな!」
この言葉を合図に二人の一騎打ちが始まった。


「隊長。こちらは終了しました。後はセッドだけです。」
新入りの隊員が言う。
「よし、私はセッドを回収する。お前は伝令役になって本陣に1時間後戻ると中隊長殿に報告しろ。」
ベリルエルはきびきびと指示した。
「はい。了解しました。」
敬礼をしてすぐに新入りは走り出した。それを見送ってから残っている隊員に指示を出す。
「いいか、今から1時間以内に本陣に戻れ。十分余裕はあるはずだ。また明日からの戦闘の為に地形を頭に入れながら帰還する事。明日は今日より辛い戦いになる事は間違い無い。本陣到着後、他の部隊に迷惑をかけない様各人食事を済ませて休養する事。以上。」
「隊長はどうなさるんですか?」
「ん?私はセッド回収後早急に本陣に戻る。どうせその辺でサボっているんだろうからな。」
少し笑いながら離れていく部下達に手を振ってセッドを探し始めた。


「くっ!」
セッドは思った以上に苦戦していた。
(くそっ!こいつ戦闘馬鹿かと思ったら魔法まで使いやがる。粘るしかねえか)
「思ったより手応えがねえな。ああ、セッドよ。」
余裕の笑みでラゼブが言う。
暫くやりあっていたが、長期戦になればなるほどセッドの方が不利になっていた。
剣の腕もさる事ながら、詠唱時間が無くいきなりくる魔法は脅威だった。
「ふふふ、しぶとさだけは認めてやるぞセッド。だがなお遊びはここまでだ。そろそろ終わりにしたいんでな。けりをつけさせてもらうぜ。あの世で248小隊の連中と挨拶でもするんだな。」
(ちっ!長期戦なら勝ち目があると思ったんだが、とんだ誤算だったぜ。それに、今の俺じゃ一撃であいつを葬る術がねえ・・・)
「ここまでかもしれねえが、悪あがきはさせてもらうぜ!!!腐っても248のセッドだぜ。」
大見得切るが実際の所は本当に悪あがきだけでは勝てないと思っていた。
「そうでなくてはな。最後まで勇敢だったと俺が語り継いでやるぜ。行くぞっ!!!」
何度目だろうか。セッドとレゼブはぶつかり合った。力はほぼ互角。少しセッドの方が上といった所である。
そして、一気に離れながらラゼブは剣技を放つ。セッドはそれに合わせて剣技を打つ。打ち消し合ってもセッドの剣技の方が威力があるのかそのままラゼブに向かっていく。2発防いだが残りは全部食らうラゼブ。
しかし、それをもろともせず呪文を唱え、放つ!
今までの呪文とは桁違いの強力なものだと言う事は、皮肉にもベリルエルのそばにいたのでセッドにも分かった。
「くそっ!」
無駄と分かってはいるのだが、魔法に向かって剣技を打ってしまう。
ラゼブが放ったのは暗黒魔法「デス・ギガサンダー」
「デス・サンダー」の高位魔法。間に「デス・メガサンダー」がある。その名の通り相手を死に至らしめる電撃魔法である。金属製のものを身に付けている相手に対してや、水場で使うと更に威力を発揮する。
虚しくセッドの剣技が魔法をすり抜ける。金属が不味いのは分かっていたがセッドは観念して剣を構えた。追尾して来る事は知っていたのであえて受けて大往生してやると、心に決めた。
(すまねえ。上官殿。俺はここまでみたいだ・・・)
セッドの顔には諦めの笑顔が浮かんでいた。