レーンの死

セッドとレーンが入隊してから2ヶ月が過ぎようとしていた・・・


「私の言っている事を冷静に聞け。冷静なお前なら分かるはずだレーン落ち着け!」
部屋ではレーンとベリルエルの口論が外まで聞こえていた。
「これが落ち着いてられるかってんだよ。なあ、隊長なら分かってくれるだろ?頼む、出撃許可を!」
「くどいっ!!!これは相手の罠だ。分かっていてお前をむざむざと死なせる訳にはいかん。お前は砦内待機だ。見張りもつけてな。絶対に行くのは許さん!」
机を叩いてはっきりと言い切るベリルエル。
「どうしても駄目か?」
レーンは望みが無いと分かっていたがあえて再度聞いてみる。
「他の事は聞けても、これだけは許可出来ん。お前こそ冷静になれ。ちょっと考えれば分かるはずだ。」
「もういいっ!隊長は分かってくれると思ったんだがな・・・。今回は勝手にやらせてもらう。」
そう言って振り返るレーンに掴みかかったベリルエルだが、力でかなう訳も無く止めるどころか逆に当身をくらってしまった。レーンの背中が遠退いて行くのを見ると同時に自分の意識も薄れ行く中で「誰か」と叫べたか分からぬまま気を失った。


事の発端は、レーンが昔世話になった人間が人質に取られ、レーン一人で来いと言う事になっていたのである。賞金稼ぎと敵軍という両方を相手しなければならない状況は分かっていた。それはいくらレーンでも危険だと言う事で、行かせるかどうかで二人はもめていたのである。


ベリルエルが気が付くとベッドの上だった。すぐに身を起こし、靴を履きながら、
「誰でも良い止めてくれ。レーンが先走った。私は残りの者と後を追う。一刻を争う。私は良いから急げ!!!」
(レーン・・・待っていろ・・・死ぬんじゃないぞ・・・)
心の中で呟きながらベリルエルは走り出した。


現場に何分遅く到着したのか・・・・・・・
木陰でセッドが血だらけのレーンを抱えていた。どう見ても、もう・・・
「レーン・・・馬鹿者・・・。だから行くなと言ったんだ。何故私の言う事を聞かなかったんだ。言う事を聞いていればこんな事にはならなかったんだぞ。聞こえているのかレーン!!!返事はどうした・・・返事・・・は・・・・」
最後は声になっていなかった。自然と泣いていた。
しかし、そこは流石ベリルエル
「いいか、レーンの弔い合戦だ。レーンの仇絶対に一人も逃がすな!行けっ!!!」
その言葉に弾かれる様に248小隊のメンバーは散っていきあちこちで戦闘になった。
「セッド、お前も行け。レーンは私が見てる・・・・」
「了解、上官殿。・・・・うおおおおーーーーーー!!!くそったれーーーーーー!!!!」
叫びながらセッドは森の中に消えていった。
ベリルエルが抱えるとレーンは既に冷たくなっていた。
「馬鹿者。何故我慢できなかった。いつもならこんな事無いというのに。それになんだこの無様な死に方は・・・。これが不死身の戦士と言われた男か?情け無いぞ・・・レーン・・・・。」
そこまで言って木漏れ日の見える木を見上げた。涙が頬を伝っていた。
「仇は必ず取ってやる。そして、お前の助けたかった人間は必ず助け出してやる。約束だ。だから、安らかに眠れ・・・ただなお前はまだ死ぬには早過ぎた。もっと働いてもらわなければならなかったのにな・・・・」
目を閉じながら静かに言う。
「ふう・・・そう言っても仕方ない、か。すまんな、ゆっくり休め今まで良く働いてくれた。感謝するぞ。」
軽く溜息をついた後目を開けてレーンを見で言いながら敬礼した。

その後は鬼神のごとくなった248小隊に敵側は全滅。人質になっていたレーンの恩人も無事救出された。

「小隊全員整列。レーンロードに生前の礼を、追悼の意を、輪廻転生を願い全員、黙祷ーーーー!!!」
ベリルエルの声で本人やセッドを含め248小隊だけでなく人質になっていた恩人もレーンの遺体に向かって黙祷した。
黙祷が終わりレーンの遺体はレーンの知人が引き取る事になり、合わせて葬儀等も執り行う事になった。

葬儀の席には248小隊の面々がいた。
「少し淋しくなるな、セッド。」
ベリルエルは苦笑いしながら言う。
「唯一の俺との同期だったんですよね。上官殿に初めて会ったのはつい最近のことだったのに・・・・」
セッドも暗い顔をせざるを得ない。
「ここはそういう所だ。昨日いた奴が今日にはいない。それが当たり前の、な。まあ、私は例外だがな・・・」
自嘲めいた笑みを浮かべる。
「俺はレーンの分も生きますよ。上官殿だけに辛い思いはさせません。」
ベリルエルをしっかりと見て、真面目な顔をしでしっかりと言うセッド。
「ふっ。そう言った奴等は過去に沢山いたぞ。お前もその一人にならない事を祈ってるぞ。」
あっさりと言うベリルエルに口を開こうとしたセッドに、手で制して更に続ける。
「さあ、帰るぞ。言いたい事があれば後で聞いてやる。」
セッドはその言葉に黙って頷いた。
248小隊のメンバーは深々と頭を下げ式場から出ていった。

「雪が来そうな感じだな・・・。それに嫌な感じもする・・・・・・。」
ベリルエルは遠くの空を見ながら呟いた。
「上官殿。何か言いましたか?」
「いや、何でも無い気にするな」
セッドは不思議そうに軽く首を傾げていた
いつもの通りに答えたベリルエルだったが何か胸につかえるものがあった。