出会い

セッドは城の前に来ていた。
いろいろな職に就いて来て次に選んだ職業は軍人。
もう適性検査は終っていて合格を貰い今日は集団の就任式になっていた。
時間まではまだゆうに1時間はあるが、今までの癖か早く来てしまっていた。
「お堅い奴じゃねえと良いんだけどなあ。」
独り言を良いながら城門にいる兵士に話しかける。
「どうも。セッドっていうんだけど就任式出席の為に登城したんだけど入っても良いか?」
「随分と早く来て良い心がけだ。構わんぞ。入って左側にある広場が会場だからな。そこで待っていると良い。ただし、お偉いさんもいるから無礼の無いようにな。」
ちょっと偉そうだが、セッドはこの言い方は嫌いじゃなかった。
「それじゃあ失礼するぜ。」
セッドは城門を潜り左側にある広場へと向かった。

ベリルエルは不機嫌だった。
前回の戦闘で主力のかなりの人数が戦死して戦力不足だというのに補強は2人しかいないという。前回の戦闘前まで26人いた隊員が今では10人半分以下である。
しかも、戦闘系が激減している為に、素人に毛が生えた程度でも良いから人材が欲しかったのだが・・・。
「そんなに私が邪魔か!」
机を叩いて怒鳴るベリルエルを見て参謀は
「でしょうな。しかし、先ずはその二人を見てみましょう。文句はそれから言いましょう。」
「ふう・・・」
ベリルエルは溜息をつきながら続けた。
「そうだな。荒くれ者は正式採用意外でも転がり込んでくるからな。よし、行くか。」
それを聞きながら参謀は顎に手をやっていった。
「そうですな。参りますか、隊長。」
ベリルエルと参謀は二人で廊下を外へと歩いていった。

広場の外には1時間前だったが結構人が集まっていた。
「へえ・・・なんだかんだいって結構来てんだなあ。逆を返すとそれだけ死んでいるって事か・・・」
何となく辺りを見渡すと見た顔がいた。その相手もセッドに気がついて手を振りながら近づいてくる。
「よお!セッド。久しぶじゃねえか。元気してたか?」
軽く腕を首に回して相手が言う。
レーン・ロード。「不死身の戦士」と巷では有名な男だった。レーンとは昔一緒に護衛の仕事をした事が何度かあったのである。
「よっ!相変らずだなお前は。俺も相変らず元気だぜ。しかし、お前が軍に来るとはどういうこった?」
レーンは少し笑いながら言う。
「まあ、相手の軍人でよ、結構な腕前の奴がゴロゴロしてるってんで勝負してえなあって思ってな。」
「成る程な。お前らしいわ。」
笑いながらセッドは言う。
「そういうお前こそ、次は軍人か?」
「ああ、かなりのもんにはなったと思うしな。師匠が軍人になるならいろいろな事を覚えてからにしろって言ってな。後は一度軍人になってみろとも言ったからよ。そろそろ、頃合かなと思ってな。」
「また、師匠か。お前の師匠には会ってみたいぜ。1度手合わせして貰いてえよ。」
レーンは不敵に笑いながら言う。
「まあ、言っちゃあ何だが勝ち目はねえぞ。はっきり言ってな。」
セッドはスピリテッドとの修行時代を思い出しながら苦笑いして言う。
「いや、勝負なんてのは良いんだ。勝てなくても俺が何処までの腕か確かめてえんだ。ただそれだけだからよ。」
(こいつも強い。少なくとも今の俺ではこいつの足元にも及ばない)
セッドはレーンの言う事を聞きながら思っていた。
「まあ、一緒かどうかは分からないが同士討ちだけは止めような。」
「全くだ。馬鹿みたいだからな。」
お互い笑いながら言い合った。後は暫く過去の話に花が咲いた。

「今回はなかなかの粒ぞろいですな。隊長。」
参謀のフェース・レイは見渡しているベリルエルに言った。
「そうだな。まともな二人が入れば良いんだがな。」
「腕ですか?素行ですか?」
悪戯っぽく笑いながらフェースは言う。
「素行なんぞどうにでもなる。次の戦闘までに育てている時間は無い。即戦力の戦闘系が二人欲しいな。」
ベリルエルは率直な意見を言った。
「どうですかなあ。ちなみにあの二人なんかどうですかな?隊長。」
フェースの指し示す先には、セッドとレーンがいた。
「それなら申し分ないんだがな。私は二人とも知っている。結構有名人だからな。それだけにまあ、無理だろうがな。」
「ほう・・・隊長がご存知とは。一体何者ですかな?宜しかったらお教え願いませんか?」
フェースは目を細めながら聞く。
「ああ、別に構わん。左に立っているのが不死身の戦士。右が北の英雄だ。」
「なんと、あの二人が!良くご存知ですな隊長。」
フェースはベリルエルの言葉に細めていた目を見開いて驚きを隠せない口調で言う。
「ふふふ。なーに。昔の部下の一人で似顔絵の上手い奴がいてな、そいつが良く私に似顔絵を見せながら言ってたんだ。」
遠い目をしながらベリルエルは言った。
「そうでしたか・・・。しかし、あれだけの人物ならば隊長のおっしゃる通りこちらに来る可能性は低いですな。」
ちょっと残念そうな顔をしてフェースは言う。
「まあ、可能性は無いとは思わんがな。無能な連中が多いからな。知らんかもしれん。それでだ、あんまり言う事を聞きそうに無かったら流れてくる可能性はあるぞ。」
フェースにウインクして、
「さて、そろそろ時間だ。行くぞ。」
「はい。」
(相変らず抜け目の無い方だ)
フェースは着いて行く途中で思い、内心で笑っていた。

そして、ベリルエルの予想は的中した。
二人は言葉の悪さで248小隊入りが決定した。

「なあ、あんまり評判良くねえみたいだな。」
セッドはレーンに言ったが、気にしていない様子だった。
「まあ、良いじゃねえか。俺らにゃお似合いだろ。それに隊長が女って言ってるしよ。荒くれ者をまとめている女がどんな奴か見てみてえしな。」
「そいつは言えてる。」
二人ともたいして気にせずにベリルエルとフェースの前に歩いていった。

「予想通りになりましたな。」
妙に嬉しそうに言うフェース。
「まあ、名前通り、噂通りなら良いんだがな。腕が。性格なんぞどうでも良い。」
厳しい目をしながら言うベリルエル。
「相変らず手厳しいですな隊長は。でもまあそうあって頂かないと困りますがね。」
「静かに・・・二人が来るぞ」

向かい合う四人。最初に口を開いたのはベリルエルだった。
「私が248小隊長のベリルエル・レーテルだ。」
きつそうな姉ちゃんだなとセッドは思った。
「俺はセッド、セッドビンセンス」
「俺は、レーン・ロードだ。んで、初対面で何だけどこっちは?」
レーンはベリルエルに聞いた。ベリルエルはフェースを見て、挨拶する様にと手で指示を出した。
「おまけのフェース・レイです」
(フェース・レイ?どっかで聞いたような気がすんだよなあ。)
ちょっと考え込んでいるセッドを無視して、
「フェース。例の物をこの二人に。」
そう言われるとフェースは2枚紙を取り出して1枚ずつセッドとレーンに渡す。レーンはすぐに受け取ったがセッドはまだ考え込んでいたのでフェースに声をかけられる。
「セッド・ビンセンス。どうしました?」
セッドは声をかけられて、すぐに我に返り紙を受け取る。

ベリルエル5ヶ条
1.私の部下になったからには、絶対何があっても見捨てはしない。
2.私を見限っても、見捨てても、裏切っても構わないが、同僚にだけはこれをするな。
3.私は行き届かない上司なので納得が行かない事は手段は問わずに構わないので必ず伝える事。
4.己を知り、他人を知れ。自分に自信を持ち信用しろ。
5.他人に、戦いに負け続けても構わない。己に勝てば良い。

「ふーん」
「へえ」
二人とも読んで悪くは思わなかった。
「それでは二人には最初の命令だ。私を上官として呼ぶ事。他の目、耳もあるのでそれも考慮に入れる事。呼び方が分からぬのなら隊長で良い。ただし中隊長以上がいる時は小隊長と呼ぶように。」
ベリルエルの言葉にセッドとレーンは顔を見合わせる。
「レーン・セッド返事は!!!」
「了解。隊長。」
やる気無く返事するセッド。
「はいよ、隊長。」
わざと馴れ馴れしく言うレーン。
「分かれば良い。フェース。二人を部屋に案内しろ。」
二人の言葉や態度を全然気にせず言った。
「はい、隊長。さあ、二人ともこちらですよ。他のメンバーにも紹介しますから。」

城内に入り、フェースについてきた二人だったが、レーンはすぐに口を開いた。
「なあ、やるなあ隊長さん。俺気に入ったぜ」
「まあ今までかなりの難敵を相手にしてきましたからね隊長は。あの位では動じませんよ。」
フェースはくすくす笑いながら言う。
そして、まだ考えこんでいるセッドにもレーンは声をかける。
「なあ、セッド。さっきから何考えてんだよ?」
「ああ、ちょっとな・・・」
「歯切れ悪いなあ。らしくねえぞ。」
少し不機嫌そうにレーンは言う。
「まあまあレーン。考え事をしている人に声をかけると分からなくなっちゃいますからそっとしてあげなさいな。」
今にも詰め寄りそうなレーンにフェーズが釘を刺す。
その言葉の後は三人とも黙ったまま歩いていた。
そして暫くしてセッドは思い出した。
「そうだっ!!」
「うわっ!?」
「どわっ!」
いきなり声をあげたのでフェースとレーンはびっくりしてしまった。
「お前なあ、一体・・・」
「どうしたんですか?」
食って掛かりそうになるレーンをフェースが制しながらセッドに聞いた。
「フェース・レイ。思い出したぞ。何であんたがこっちにいるんだよ。あんたあっちの軍師だろ?」
セッドはちょっと訝しげにフェースを見ながら言った。
「はあ、昔はそうでしたよ。でも隊長に説得されましてね。それで今はここにいるんですよ。」
にっこり笑って言う。
「嘘くせえ・・・。」
セッドは更に訝しげにフェースを見る。
フェースは少し困った顔をして、
「私がここにいる事ですか?それとも隊長の説得ですか?」
「両方!」
間髪入れずセッドは言う。
「嘘かどうかは、隊長と暫くいれば分かりますよ。ここは居心地良いですからね。レーンは気に入って頂けたみたいですけれどね。」
「そうだな、隊長さんは気に入ったぜ、俺はな。セッドお前もそのうち分かるぜ。まあ一緒に見極めてやろうや、な?」
そう言っていまだにフェースを訝しげに見ているセッドの肩を叩く。
「そうするか。分かった。暫くは様子見だ。あんたも、あの女も。」
ちょっと睨みを聞かせて言うセッド。
「どうぞお好きに。私も隊長も飾りませんからいくらでも好きなだけ見て下さいな。」
セッドの睨みにもまったく動じた風も無くにっこり笑って言う。
(こいつには頭が上がりそうに無いな・・・)
内心でそう思って苦笑いするセッドだった。

「さて、行ったか」
会場の片づけを手伝った後軽く伸びをする。
「少し楽しくなりそうだな」
少し笑って言いながらベリルエルは城内に消えていった。